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転じて吉[第十七話]

第十七話『直接のキス』 


 腕を抱え、時折後ろを振り返る。
 きょろきょろと辺りを警戒しては、視界が移りゆくたび知らない顔と目が合い、貴崎祐は怯えた。
 挙動が不審とは、まさにこれである。

 皆がこちらを見ている気がする。
 白いワンピースを可憐にまとい、さも大人しい天使のような少女ーーに扮した男子高校生を見ている気が。

 近づいてくる人影を感じて、はっと数歩後退ると、背後で切符を買っていた二条院学にどんとぶつかった。

「ッ痛! ふらふらするなッ! 鬱陶しいッ」

 美少女の出で立ちをした二条院は、大物アイドル歌手がかけるようなサングラスの位置を直しながら貴崎の肩を突き飛ばした。

 改札上の時計を見上げ「やばいッ、遅刻だ!」と舌打ちする二条院。強引に腕を引かれて走り出す。
「ちょっ、無理だって! 走れるか! こんなの」
 叫ぶ貴崎を「黙って走れバカ! お前のせいだろ!」と罵り、二条院は階段を駆け上がる。

 フランス人形が履いていそうな光る紺色の靴には、低いながらもヒールというものがある。さらに靴に足を合わせろと言わんばかりに妥協の無い硬質な履き心地。
 腰にリボンが付いたコートは重く、身体が動かし辛い。
『お洒落は忍耐』という二条院の言葉に早くも殺されそうだ。

 長い階段を駆け上がり、待ち合わせ場所である反対側の改札が見えるころには貴崎は恥ずかしさと疲労で倒れそうになっていた。

 貴崎にこんな思いをさせる発端とも言える恋人ーー成宮冬馬にどう文句を言ってやろうか。涙目になるのを堪えながら怒りに震えていたが、いざ冬馬の後姿を視界に捉えると途端に緊張の糸が切れ、何年も会わずに恋焦がれていたかのごとく、恋人を求めふわふわと駆け出していた。

「お、来た来た」
 冬馬の隣に立つ久遠がこちらに気付き軽く手を上げる。
 愛しい顔が振り返る。
 目が合う。
 冬馬は刹那「あ」と漏らしたようだが、魂が奪われたように表情は消え、駆け寄る貴崎をただ眼で追った。

「悪いっ、遅れた!」

 二条院が息を切らし、握っていた貴崎の腕を乱暴に振り払う。久遠はへらへらしながら「俺も今来たとこ。珍しいな、生徒会役員が遅刻かよ」と言った。

 思わず胸に飛び込みたくなるのを我慢して、貴崎は無言で冬馬を見上げ、そっと身を寄せた。
 大人びた幼馴染の私服姿には、毎度気後れしそうになる。

 安心したせいか目頭が熱い。
 恋人はいまだ何かに魅入られた様子でじっと貴崎を見つめていた。
「冬馬……?」
 甘えたいのを隠して、そわそわと上目づかいで呼ぶと、いきなり凄い力で冬馬に抱き締められてしまった。

「ぁ……んん……っ」
 恋人の香りにきつく包まれる。
 頬に触れる柔らかな髪。
 唇にあたる冬馬の首筋に思わず顔をうずめたくなる。
 どうしようもなくーーやはり大好きなのだ。

 冬馬の背中越し、面白くなさそうな二条院の横で久遠がにやにやと笑っていた。

「と、ぉま……ぁ?」

「祐……っ、すッごく……、すッごく、カワイイよ!!」

 ようやく身体を離した恋人は、真正面から貴崎の両肩をがしりと捕まえ、褐色の瞳を輝かせて力強くそう言った。稀に見る最高の笑顔である。

「ああ……、まあ、うん。……ありがと」

 冬馬は二条院を振り返る。
「やっぱり二条院のセンスはスゴいね。祐の魅力をこんなに上手く引き出せるなんて。……このワンピースも祐のイメージにピッタリだし……神秘的な雰囲気が残ってるって言うかさぁ……祐の良さわかってるよね」
 なんだ神秘的ってーー。
 苦労しているのは貴崎なのに、何故か二条院が褒められている。

「当然。俺に不可能は無いからな」
 二条院は得意気に言い、それから「ああ、そうだ」と携帯を取り出した。

「案の定、このバカが変な奴に連れて行かれそうになったから、約束通りボコっておいた。これが証拠だ」
 二条院は携帯画面を冬馬にかざす。

「あ、あれは別に、連れて行かれそうになった訳じゃないだろ! ちょっと話しかけられただけで、お前が一方的に回し蹴り入れたんじゃないか」

「ホント吐き気がするくらい阿呆だなお前は。あんなのは新手のキャッチだ。あんな奴に捕まるから、待ち合わせに遅れたじゃないか!」

 二条院と商店街を歩いて来た際、「ちょっと人探してんだけど」と若い男に声をかけられた。
 貴崎が立ち止まって尋ね人の特徴を聞き、そんな奴は知らないと言うと「学校にもいない? ちなみに君いくつ? どこの学校?」とこちらの事を聞き始めた。挙句もう少し詳しく話しを聞いて欲しいから、一緒に来てと言う。
 困惑した貴崎をよそに、二条院はいきなり男に回し蹴りを食らわし、倒れたところを更に痛めつけた。
 美少女が無言で技を繰り出す光景はなかなか圧巻であったが、貴崎が慌てて止めると二条院は「これくらいは合法だ」と訳の分からないことを言って手を払い、最後に強烈な蹴り技を披露した。

 朦朧とした顔付きの男が仰向けに倒れている写真が、二条院の携帯画面に表示されている。それを覗き込んだ冬馬はやや不満気に「……まあまあかな」と言った。

「ああそうだ、忘れてた。久遠、はいこれ。頼まれてたライブのチケット、全部売れたよ」
 一転爽やかな笑顔に戻った冬馬は、カバンから封筒を取り出し、久遠に差し出した。
「おお、悪いな」
「いいよ。結構有名なんだね。すぐに無くなった」
「そっか? なんか自分のライブチケットとか売るの恥ずかしくてさ。マジ助かった」
 すると二条院もニコニコとして「まいどあり」と可愛く首を傾けた。
 久遠のライブチケットを冬馬が代わりにさばいたと見える。まさかその見返りに自分は女装させられたのではあるまいかと貴崎は目を見張った。

 四人で電車に乗り、待ち合わせした駅から二十分程揺られる。

 人前で堂々と手を繋げるのがこんなに楽しいとは。
 電車の中の人混みで冬馬の腕に身体をぴたりと寄せながら、貴崎は一人恥ずかしさと嬉しさに口元を緩ませうずうずとしていた。

 目的の駅に着き改札を出ると、駅に直結した巨大なショッピングモールの向こうに観覧車が見えた。

「俺等ちょっと寄りたい店あるし、ここで一旦別れるか」
 二条院と手を繋いだ久遠が言う。
「そーだね。また後で遊園地に入ったら連絡するよ」
 やっと別行動だと安堵しかけたところで、二条院が「ああ、そうそう」と思い出したように声をあげた。

「祐。あの遊園地は、入ってすぐ右手の所に迷子センターがあるからな」

「……」
 二条院の意味深な忠告に、貴崎は黙りこくった。

 さかのぼること中学の修学旅行である。
 貴崎には、遊園地で小学生の迷子に間違われて迷子センターの人に連れて行かれたという悲しい過去がある。
 冬馬にバラしたら殺してやろうと思ったが、幸い久遠に手を繋がれた二条院は鎖をされた動物のように大人しく、気色悪いくらい上機嫌だったので、それ以上は何も言わなかった。
 あわや迷子放送が園内に流されるというところで修学旅行委員の二条院が現れ事なきを得た訳だが、二条院に秘密を握られたのはその後の貴崎の不幸に直結した。

 二条院達と別れると、貴崎は冬馬に手を引かれてショッピングモールの入り口まで歩いた。

「祐。どこか行きたい店とかある?」

「そーだなあ……」大きな案内板を見上げていると、後ろに立った冬馬が貴崎の身体のラインをなぞるように脇腹から腰に手を滑らし、さり気なく両手を回した。
 貴崎の頭に頬をあてて冬馬も案内板を眺める。

 背後から抱き締められて少し慌てた貴崎であったが、周囲から見れば男女の恋人同士がイチャついている程度にしか見えないのだからセーフとしよう。

「どこでもいいよ。祐の行きたい所言ってみて。どこがいい? あ、何か食べたい物は? お昼まだだし。
 何でもいいよ、好きなもの奢ってあげるから。祐の好きなお寿司もあるし……ほら、クレープも」
 冬馬の腕に力がこもる。

「何でも好きなもの言ってごらん。
 祐が行きたいとこ、どこでも連れて行ってあげる。欲しい物も全部買ってあげるよ」

 微かに狂信的な声音を感じ、斜め上をちらりと見る。

「冬馬お前……眼が、ヤバイぞ」

 援助交際かよと吐き捨ててから、貴崎は気が遠くなる多さの店名リストを睨みつけた。

「別に、どこでもいいけどな。と、冬馬と……一緒、なら……」

「んー……それじゃあ、ホテル……は?」

 呆れて恋人を見上げると、案外顔が本気である。

「そ、それじゃあ、せっかくこんな格好してきた意味が無いだろ!」

「あ、怒った顔もカワイイっ。写真、写真……祐、こっち向いて」

 人の事は言えないが、冬馬も相当浮かれている。心配になるくらいウキウキだ。

 顔の周りでパシパシ鳴る携帯を無視して、レストラン街の店名リストを睨みつけた。

「まあ、とりあえず昼飯、かな……」




 昼食を済ませて洋食屋を出ると、貴崎は座れる場所を探した。

 専門店街と百貨店を繋ぐ通りには草木や人口河川があり、ちょっとした公園のようになっている。
 川辺のデッキにベンチを見つけ、腰を下ろす。
 背丈ほどある植木に隠れていて人目は殆ど無い。
 貴崎はふうと肩の力を抜いて、両足を伸ばした。

 先程のオムライスはどうも食べた気がしない。勿体無いことをした。
 白いワンピースを汚さないよう気を使うし、育ちの良い少女のように行儀よく少しずつ食べなければならない。いつもみたいに足をぶらぶらさせながら大口開けて頬張るなんて以ての外。
 そうやって神経を尖らせているせいか、周囲からの視線を物凄く感じた。

「疲れた?」

 そう言いながら隣に座った冬馬は、ごく自然に貴崎の背中に腕を回す。
 相変わらずデート中の冬馬の振る舞いには、同じ男として関心する。場数が一桁も二桁も違うのだろう。

「……ちょっと、な」貴崎が力無く言うと、心配そうな顔をして、どこかで休もうかと抱き寄せられる。

 ホテルに行こうと冬馬が言いだす前に、貴崎は少し休めば大丈夫だからと首を横に振った。

「ごめんね、祐。無理矢理こんな、しんどい思いさせて」

「……まあ、もういいけどさ。先に言ってくれれば良かったのに。こういう事になるって……」

「だって、先に言ったら祐、嫌がるかなって思って」

 そりゃそうだ。全力で拒否しただろう。

「まあ……。でも俺だって……冬馬のために出来るだけ、人に自慢出来るような恋人になりたいとは、思ってるし……。冬馬が、カワイイ彼女連れて歩きたいってんなら、俺別に、協力しなくは……」

「祐っ、それは違うよ!
 俺はただ……外でも祐と手繋いだり、身体に触れたりしたかっただけで……。
 祐もそんな風に出来たら嬉しいんじゃないかなって。だって祐、学校でも周りの眼ばっかり気にして疲れてるみたいだったから……」
 冬馬は顔を伏せた。
「それに本当は、周りばっかり見てないで、もっと……なんていうか……俺のこと、見て欲しいなと、思って……ごめん」

「そ、そっか……。別に謝ることないだろ! 俺だって、こうして外で手繋いだり出来んのは嬉しい訳だし。
 でも安心した。やっぱ冬馬は可愛い女子の方が好きなのかなって、ちょっと不安になったから」

 そんな訳ないよと、冬馬は少し寂しそうに呟いた。
「俺は祐しか見てないのに……。
 ホントは祐が隣にいてくれるなら、男の格好でも女の格好でも、どっちでもいいんだ。
 あ、もちろん今日の格好は凄く可愛いけど……!!
 でも祐は、裸が……っ袴姿が、一番素敵だよ」

 僅かに頬を染めて微笑む幼馴染に、貴崎も嬉しくなって笑った。

「よしっ」と元気よく立ち上がる。

 人目が無いことを確認して冬馬に向き直り、意を決してスカートに両手をあて言った。

「ジャジャンっ! では問題です! こ、このスカートの中は何を履いているでしょうか!」
 大きく息を吸い込む。
「1番、いつものパンツ。2番、毛糸のパンツ。3番、体育の短パン。4番、えっと……その他。さてどれでしょう。ヒントは、寒い季節には欠かせないものです」

「え、えっ! なに!?」冬馬は慌てて考え始めた。

「えーと……。んー……何も履いてないって選択肢は、無いの、かな……? あ、4番?」

「……。ヒントは、寒い季節には欠かせないものです」

「じゃ、じゃあ……4番のその他でーー。白いレースでーー透けたぁ……」

「はい、タイムアウトです。残念でした。
 お前せっかくのヒント聞いてんのかよ。
 正解はぁーージャージャン、ジャージャン、ジャジャジャジャーー……」

 レースのプリーツをぎゅっと握りしめる。

 意を決して両手を持ち上げようとしたが、スカートの裾から冷気が入り込んで、太腿で途切れたニーハイソックスから上がすうすうとする。
 恥ずかしさに下唇を噛む。顔が熱い。
 手が震える。

「……ッ! やっぱダメだ……っ。ムリムリ、絶対ムリ! 全然感じ出ねえし」

 からかい半分に二条院がやって見せてくれた時には、もっと色気のようなものがあって、体育の短パンを履くのを見ていたにも関わらず貴崎はドキドキしたのだが。
 なぜ貴崎が再現すると幼稚園児のお遊戯っぽくなってしまうのだろう。

「エッ! ちょ……ッ、終わり!? え、嘘っ、嘘だよね!?祐ッ?」

「冬馬、クレープ行こうぜ。クレープ」

 バカらしさを痛感した貴崎は、動揺する冬馬を引っ張り歩き出した。

 しばらく歩き、フードコートのクレープ屋に着くと、依然として納得出来ない顔の冬馬はホットコーヒーを頼んだ。

 貴崎はクレープを一つ買い、テーブル席につく。

 クレープの苺を長いスプーンですくって冬馬の口元に差し出すと、冬馬は一瞬驚き、ふうと諦めたように微笑んでから口を開けた。

 その光景があまりにも格好良く出来過ぎていて、何となくドラマの一場面みたいだと思いながら、貴崎はクリームをすくってちびちびと舐めた。

 冬馬は肘を付き、愛おしそうに貴崎を眺め微笑んでいる。

「間接キス、だね」

 ぼんやりとした口調で冬馬が言う。

「んん……まあ、な」と貴崎が返すと、冬馬は何も言わずにコーヒーに口を付けた。

「え……別に、いいだろ。それ以上のことも、いろいろ、やってんだし……」
 視線を反らせて貴崎はぼそりと言う。語尾は消えた。

「いろいろーーって?」

「え?」

「間接キス以上の、いろいろってーーどんなこと?」
 カップを置き、幼馴染は穏やかに問う。

「そっ、それは……。直接の、キスとかーー」
「キス、だけ?」
「は?」
「俺達って、キスだけの関係だっけ」
 ふと冬馬の顔から微笑みが消える。

「そんなの……言わなくても分かってるだろ!?」
 貴崎が口を尖らせると、肘を付いた冬馬はのほほんとコーヒーを掻き混ぜた。

「具体的に祐の口から聞かないと安心出来ないなぁ。祐ホントは何にも覚えてないんじゃないの?」
「そんな訳あるかよ!」
 あんな事しといてーー。
「じゃあ聞かせてよ」
 冬馬は余裕の笑みを湛え、足を組み替えた。

「だ、だから……冬馬の部屋で……」
「俺の部屋で? 俺の部屋で、俺とどんなことしたの?」

 その手には乗るか。
 貴崎はしばらくスプーンを噛み噛み、黙り込む。

 冬馬は暇を持て余すように、スプーンでコーヒーをすくい取った。そして独り言のように小さな声で呟いた。

「祐は子供だもんねぇ。
 また迷子センターの人に連れて行かれないか心配だなぁ」

 あのクソメガネーー。
 二条院への報復を心に誓う。

 何も言わない貴崎に退屈したのか、冬馬は肘を付いて横目でどこか遠くを眺めている。
 冬馬の目線を追って振り返ると、その先は斜め後ろのテーブルにつく若いカップルであったが、長い手足と肩を露出した女の方がちらちらと冬馬を見ている。

 貴崎はもう一度冬馬を睨みつけた。
 それからスプーンを唇にトントンあてて考え、小さくコホンと咳払いをした。

「と、とぉまと、……た」

「ん?」

「と、とぉまと、……した」

「え、なに?」

「とぉまと、えっち……した」

 うぐぅっと羞恥心を噛み殺す。

「へえ、そうなんだ」
 冬馬が目を細める。それから両腕を前に出して伸びをし、顔を傾け挑発するように囁いた。

「また、しちゃう……?」

 動きを止めていた貴崎は、ぎゅっと唇を噛んだまま小さくこくりと頷いた。

「また、したい。とぉまと……えっち、いっぱい……」
 声がかすれる。

「はい、よく言えました」

 幼馴染は満足気に笑った。

「さっきのお返し。あと一応、確認」
 流し目でそう言って立ち上がる恋人をこれでもかと睨めつけ、貴崎はクレープに食らいついた。

「さっきの、『いっぱい』ってのは良かったね」

 席に戻り貴崎をからかう冬馬をフンと無視して、クレープの包み紙を握り潰す。

 恋人が持って来てくれた水を飲み干し、席を立つ。
 冬馬も立ち上がると、貴崎の顔を覗き込んだ。

「祐、クリーム付いてる」

 貴崎の唇を舐め取り、ちゅっと口付けをして「ご褒美の直接キス」と言って冬馬の唇が離れて行く。

 日曜の午後。
 視界に入るだけでも多くの人で賑わっていた。
 無数の目線を感じ、貴崎はトレーを持ったまましばらく動けずにいた。

 唯でさえ熱かった頬が、更に火照る。




 それから手を繋いで専門店街をぶらぶらと歩いた。
 時々店に入って服や靴を見る。
 アクセサリーショップでは、何となくペアリングをはめてみたりする。
 貴崎が思い描いていたデートというやつだ。

 ショッピングモールから出て、歩いて10分程の遊園地に入ったのは結局二時過ぎだった。

 いつの間にか貴崎は自分から冬馬の手に指を絡ませ、腕に纏わりついて甘えている。
 イチャつけばイチャつくほど頭がぼうっとして心地良いのだ。

 冬馬の隣を歩くにふさわしい恋人ーーあくまで冬馬のためにと頑張った女装であるが、これはマズい。癖になるかもしれないと貴崎は危惧した。
 容姿に優れた恋人のせいか、痛いほど人々の視線に晒される。最初はそれが苦痛であったが、だんだんと気が膨れ上がる。
 もっと見て見てと内心はしゃぐ自分がいる。
 こんなに格好いい恋人がいるのだと、もっともっと自慢したい。「マジイケメンじゃん」と囁く巷の声にニヤニヤしたい自分が、確かにいるのだ。

 マップを見ながら園内を廻る。
 絶叫系の乗り物は苦手なので、それ以外のアトラクションを探して乗るが、人気のあるものは列が出来ていて待ち時間が発生する。
 今までは待つ事が苦手なお子様貴崎であった訳だが、つい先日大人になった暁として、遊園地の楽しみはこの待ち時間にある事を知った。
 前後を人に阻まれ身動きが取れない中で、甘く持て余す恋人同士の時間。無意味なしりとりを始める小学生のガキ共を貴崎は嘲笑った。

 園内には有名な幽霊屋敷があり、試しに入ってみたのだが、これが驚く程怖くなかった。そもそも貴崎は一度死んで幽霊になった身だ。
 冬馬も同じような感想だったのか、少し残念そうにしていた。

 気が付けば冬の陽射しは早々に傾き、空が染まり始めている。

 冬馬が二条院達に連絡をとると、ちょうど近くにいたので観覧車で落ち合うことになった。

 珍しくテンションの高い二条院。それに比べ、久遠は少し疲れているように見える。
 話によれば、絶叫マシーンが大好きな二条院に付き合い、遊園地に入ってから絶叫アトラクションの連続なのだという。そのうち久遠が過労死するのではないかと、貴崎は行く末を案じた。

 観覧車に乗る事になり、二人ずつゴンドラに乗り込む。

 最近の観覧車は冷暖房完備で、冬でもゴンドラの中は暖かい。貴崎の自室より快適な環境だ。

 入ってすぐに「コート脱げば?」と冬馬に言われ、重たいコートを脱いでたたむ。慣れない女装などしているせいで足と肩はガチガチだ。

「祐、こっち来なよ」

 手を引かれて冬馬の脚の間に座る。
 ゆっくりと沈む景色をバックに二人の写真を撮っていると、辺りはどんどん夕日色に染まっていく。

 後ろから包み込まれるように抱かれ、冬馬の肩にそっと頭を預ける。
 途中後ろのゴンドラを振り返ると、二条院は久遠の隣に腰を下ろし、二人でこちらに背を向けていた。一安心。
 前のゴンドラには誰も乗っていないので、人に見られる心配は無さそうだ。

「今日はありがと。俺のために無理してくれて」

 冬馬が優しく言う。
 貴崎の顔に手をやり、そっと上を向かせた。

 自然と唇が重なり合う。

 冬馬の体温に身体の力が抜けていく。
 ゆるくゆるく押しあてられるサラサラの唇が、気持ち良くて仕方ない。

 太ももの辺りがくすぐったいことに気が付いて顔を離すと、冬馬の長い綺麗な指が貴崎のニーハイソックスの縁をなぞっていた。
 悪戯な指はそのまま内ももを滑るように伝い、スカートの裾に忍び寄る。

 冬馬の手をやんわり押さえようとしたら、逆に冬馬の手が優しく重なってきて貴崎の手が捕まってしまった。

 幼馴染が囁くと、首に吐息を感じる。

「ねえ、スカートの中、見せて」

 その声は、ずるい。

 観覧車はゆっくりと高みを目指す。








【後書き】遅くなりました(*_*;いつもですが。
本当はデート丸一日を一話分の展開で考えていたので、こんなとこで切るなんてすごく消化不良……。ただのダラダラとしたデート風景になってしまいましたm(_ _;)m
しかし……デート丸一日を書き切ってしまうと一万五千文字は軽く突破しそうなのと、一応一ヶ月くらいをめどに更新したいという思いで、仕方なく分割。

それに明日から4月! 新しい教室、新しい職場、いろいろ不安もありましょうが、一瞬でも現実逃避のお力になれると幸いです(^^ゞ

そういう私も、新作の内容が少しまとまってきたり、古い作品を手直ししなきゃいけないのに恥ずかし過ぎて読めなかったり、祐と冬馬の書ききれなかったエピソードをSSにしようかなとか……いろんな考えが浮かんでは消え……春だな( ´∀`)


 
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ここまで1日で一気読みしました!!
最初は死ネタで悲しくなるので読むのを諦めようかと思いましたが、ここまできて本当に読んで良かった!!と全力で思っています(笑)
もう祐が可愛くて可愛くて仕方ないです!!冬馬の変態さににやにやしながらもっと冬馬が祐の可愛さに打ちのめされるのを楽しみにしてます(笑)
楽しませて下さりありがとうございます♪
これからも更新楽しみにしてます!

Re: けいったん様

けいったん様♪
コメントありがとうございます♪

(ΦωΦ)フフフ…さあ次回、生贄はどうなってしまうのでしょう!?
そう簡単にご馳走様させてなるものか(#・∀・)

うちもリビングは日当たり良い方では無いので、案外日中でも寒い時が多いです(T_T)
外も意外と風があって肌寒い……まだまだ冷え性対策の靴下は手放せません。まだ外出時は足カイロ貼ってますよー(+_+)
なんとか大阪だけ夏が早めに来ないものか……。

またお待ちしておりまーす(^^♪
ありがとうございました(@^^)/~~~

Re:unknown様

unknown様♪
コメントありがとうございます♪♪

今回はただただ成宮のセクハラ気質が目立った回でしたね〜(ノ´∀`*)
本当はこの後に一展開……といきたかったのですが、それはまた次回♪

本編に入り切らなかったエピソード、私としても是非排出しておきたい!書かずにずっと頭の中に残られると、数少ない脳細胞がもったいない(*_*; 早く書いて早く忘れる!これだ!
それに甘々に少し飽きたら、飢えてる超ブラックな過去の成宮も書きたくなるだろうし^^;
SS考えてみますねー♪
ありがとうございます(^_^)/
またお待ちしております♪♪

No title

久遠と 魔女な二条院 そして 祐と 魔王な冬馬
何て 素敵な組み合わせなのでしょう!!(笑)

しかし 両思いだから 笑って見ていられるけど、何故か 久遠と祐が 生贄に思えてならない私です。
まぁ 世の中も平和になうし、生贄'Sも 幸せそうだから いいけどね♪v(`ゝω・´)キャピィ☆

可愛い可愛い祐に 冬馬のデレた表情と 異様に輝いている視線が スンナリと目に浮かぶわぁー
しかも 周りの男どもに 冷視線を送り 威嚇している様子も!

春ですねー♪
外は ポカポカ陽気で気持ち良い!
なのに 我が家の一階のリビングは、北側にあって まだ肌寒いんですって~~!
でも 節約の為  夜までは暖房厳禁なの 家に居る時の服装は 冬バージョンのままなのです!!
ヾ( ; ̄▽)ゞオホホホホホ...byebye☆ 

おおお! 冬馬の変態っぷりにニヤニヤしてしまいました(笑 相変わらずですなぁ(^ω^)スカートの下、気になる🎶 が、その前に!冬馬希望のノーパンか白スケレース妄想にやられてしまいました(=゚ω゚)ノ ほんと、両想いになってから冬馬がイキイキ変態やってて何よりですw いっそ清々しいほどセクハラしてるな〜。 これからの続きも楽しみ〜♥︎ ssでも、冬馬の変態エピソードが見たい! 幼少のころの子供らしかぬ妄想ぷりっとか…。あと、高校で日本に帰国後初めて成長した祐を見た時とか!! まだまだ、読みたりないですよ〜❗️ これからも、楽しみにしています!

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