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アンドロイドボーイ[最終話]

最終話『アンドロイドボーイ』


「あっ……あのッ!」

 扉に手を伸ばしたところで呼び止められた。

 久遠が振り返ると、二条院は立ち上がり両手を腹の前でもぞもぞとさせ、何やら落ち着かない様子でいる。
 気まずそうに視線を泳がせて、また「あ、あの……」と口ごもった。

「何だよ」

「い、いや……あの。実は、さーー」

 二条院がぼそぼそ語るのを要約すると、つまりこうである。




 あの夜。
 久遠に前科1犯をくれてやった、あの夜。

 二条院は家に帰ると、リビングを素通りして自室に入り、そのままベッドで寝てしまった。
 翌朝。
「お兄ちゃん、起きて」
 妹・美優の、いやに落ち着いた声で目が覚めたという。

 妹が部屋へ起しに来てくれるなんて何年ぶりだろうと、二条院は少なからず浮かれた。
 しかし眼鏡をかけるなり、二条院は起き上がるのもやっとという腰痛を忘れ、ベッドの上で後退った。

 なぜなら妹は、祖母愛用の超高級高枝切りバサミをこちらに向けて立っていたからだ。

 どんな強固な枝でも一太刀(ひとたち)と名高い鋭い刃先が、朝の光を反射して艶めかしくきらめいている。その輝きたるや、さぞかし多くの樹液滴る隆々とした大枝を容赦無く一太刀にしてきたに違いないと二条院は直感した。

 妹の表情は誕生日ケーキにナイフを入れる時同様、目は座って冷徹そのもの。標的をしとめる時の必殺仕事人の顔である。

 そして何よりも、隙一つ無い威風堂々とした武将のような構え。
 これはまさか二条院家の女性に代々伝わると聞く、二条院流なぎなた術の秘技『熊えぐり』の構えではないだろうかと二条院は思った。

 妹は静かな声でゆっくりと言った。
「お兄ちゃん。どういうつもり?」

「……え?」と二条院が可能な限り穏やかに返すと、超高級高枝切りバサミがズドンっと顔の前に猛進してきたので、二条院は驚いてベッドから転げ落ちた。

「どういうつもりですかって、聞いてるの。
 どうして久遠さんに、自分の想いを伝えないの?」

「えッ!? あ、ああ……その話。その話か。それはまあ……いろいろとあって、ちゃんと決着がついてるから……。美優が心配する事は何も……。あ、そもそもお兄ちゃんは男なんて好きにならないし、あれは美優の勘違ッッ……ぅわッ! ちッ……ちょっ、美優! お、落ち着けッ……!!」

 二条院は生きた心地がしなかった。
 目の前の高枝切りバサミが威嚇するようにベッドフレームをかん高く一撃して鋭い爪痕を残し、そして次はお前だと言わんばかりに二条院の喉元にひたりとくっついた。

「私をバカにするのも大概にしろぉッ!!」

 美優はド迫力の声でそう叫び、ひしと凶器を構えた。

「これ以上私をコケにして、つまらない嘘でのさばるつもりなら、今後一切お兄ちゃんとは口をききません!」

 キッパリと言い放った後、「そんな奴、もうお兄ちゃんじゃない」と小さく付け加えた。

「そ、そんなッ! 美優!」

「それが嫌なら、久遠さんにちゃんと想いを伝えて」

「いや、でも……それはーー」

「ええいッ! 往生際が悪いっ! 好きで好きで仕方ありませんと、ハッキリ言えッ!!」

 大きなハサミがいよいよ血に飢えた様子で、両手を上げる二条院の喉元でヂョギンと吠えた。

「わ、わかったよ……」

 二条院が小さく言うと、美優は満足したようにニンマリと笑い、高枝切りバサミを鬼のようにズトンと体の横に立てた。
 かくして裁きは下された。

「分かれば宜しい」
 腰に手をやり母親の口癖で話を締める美優。
 二条院は気付かないうちに正座をしていた。

「ご、ご心配を、お掛けしました……」

 初めて妹に敬語を使ったという。




 以上が二条院 学に起きた災難の一部始終である。

 悪名高い俺様メガネが正座で妹に頭を下げたとは、なかなか痛快である。

 二条院の隣に腰を下ろし肘をついて話を聞いていた久遠は笑いを堪えながら、突っ立ったままの二条院を見上げた。

 当の本人はいたって真面目で、困った表情のまま力無く座り込む。
 愛する妹に絶縁を言い渡されそうになるとは一大事であったのだろう。顔色が悪い。

 口元に手をやり何か言いたげな二条院の言葉をしばらく待っていたら、結局どちらから話す事もなく、静かな時間が多く流れてしまった。

 夕刻の屋上は相変わらず寒い。冷たい風が校庭にある木立を揺らして夜を呼んでいる。
 落ち葉が転がっていく乾いた音を聞きながら、久遠はぼうっとしていた。

 隣を見ると二条院もまた、立て膝の上で両腕に顔をうずめ遠くを眺めている。

 携帯の振動音。

 後ろポケットに手を伸ばそうとしたが、久遠の携帯は大人しい。

 二条院がポケットに手を突っ込んで振動を止めた。

「生徒会か?」
 久遠がぽつりと聞くと、二条院は顔を半分隠したまま微かに頷いた。

「相変わらず忙しそうだな」
 俺様メガネは何も言わず、眉をひそめて思い悩むような顔をしていた。
 そのまましばらく動こうとしなかった。

「行かなくていいのか?」

 久遠が聞くと二条院は思い切ったように大きな溜め息を吐き、カバンの中から何かを取り出した。
 2枚ある紙切れのような物を1枚久遠に差し出す。
 そして口を尖らせじっと前方を見つめたまま「やる」と言った。

「なにこれ。映画のチケット?」

「生徒会の没収品だ。捨てるのは、気が引けるから……」

「映画のチケットって、見つかったら没収されんの?」

 すると二条院はぷいと向こうをむき「いらないなら返せ」と手を出した。

「いや、まあ貰っとく。見たかった映画だし……」

「……も、もしよかったら……次の日曜にでも、一緒にーー」

「え、次の、日曜……?」

「むッ、無理ならいい!」
 急にお見合いみたいなギクシャクした空気になったのは気のせいか。

「日曜、昼過ぎからなら空いてる。昼頃ちょっとライブハウスに寄るつもりだからさ」

「ライブハウス……?」

「ああ、うん。この間のライブハウスな。久しぶりにドラムの様子でも見に行こうかと思ってさ」

「また始めるのか? バンド」
 二条院が驚いた様子でこちらを見た。

「いや、別にそういう訳じゃねえけど。あそこのドラムセット、古くてあんまり練習で使う奴いねえからさ……。錆び付かせんのも、なんかな……」

「あの……」

「何だよ」

「……俺も、一緒に行っていいか? 邪魔、しないから」

「別に、いいけど。でも退屈だぞ? たぶん俺、掃除とかしだすし」

 それでもいいと二条院が言い張るので、日曜の昼に会う約束をした。

「じゃあ日曜」と二条院は立ち上がった。

「あっ、おい」
 久遠が細い手首を捕まえる。

 二条院は不思議そうに振り返った。

「あれ、いいのか?」

「あれ?」と二条院は目を細めた。

「ほら、好きで好きで仕方ありませんって、俺に言わなくて、いいのか?」

 久遠が言うと、「お前、楽しそうだな」と二条院は言った。
 それから久遠の手を振り払って「誰が言うか! そんなこと」と怒りながら歩いて行った。

 久遠がにやにやしながら後ろ姿を眺めていると、二条院が立ち止まる。

 そして振り向いたかと思えば、いつか見た様にこちらをズバシと指差した。

「 狙った獲物は逃がさない!
 既にお前のハートは私のものだ!! 」

 高校生にもなってどうしてそんな恥ずかしい事を大声で叫べるのだろうと、そういえばあの時も久遠は思った。

 たださすがと言うべきか、超絶美少女アンドロイドは有言実行なのである。
 久遠 翔はアンドロイドなるものの実力を知り、気が付けばまんまとハマっていた。

 ― もう一度ドキドキさせてあげちゃう
 アンドロイド キス
 とびきりのスリルでーー

 サビの歌い出しは確かそんなだったか。

 視線を釘付けにして歩いて行ったアンドロイドが扉の前でちらりと振り返る。

 そしてしびれる微笑み一つで、狙った獲物を悩殺。

 既にハートは、奴のものである。




          ーー完ーー




【後書き】
ふぃ〜やっと終わりましたぜ。
長々とここまでお読み下さった方、本当にありがとうございます。
そして微妙な終わり方でホントごめんなさいm(_ _;)m

ただ……! ただ…、女装君が欲しかった!
ただそれだけなんです。
女装キャラが欲しいばかっかりに前作のスピンオフくらいの軽い気持ちで書き始めたのが……まさか30話近くなって、今年も終わっちゃう時期になるとはね。

誰も信じてくれないでしょうが、私はこれを8話くらいで終らすつもりだった。相当キテるな、自分。今回改めて自覚しました。

軽い気持ちで書き始めたから内容もそれほど作り込んでなくて、逆に書いてて苦しい部分もありいの。
裏設定やエピソードのメモを怠ったため、あれ書こう!と思ってた事をいっぱい書き忘れたなど、毎度課題は山積みです。何より読んでる方からしたら「?」のまま終っていった部分が多くて迷惑極まりない事でしょう。ホントにすみません。

収穫は、スマホで執筆するスタイルがつかめた事かな♪

ということで、次の新作が決まるまで「転じて吉」がまたダラダラと続いてしまいそう^^; 
やっと手に入れた女装君を使って何をさせてしまうのか……私。
アンドロイドボーイの2人の行く末も「転じて吉」の方で☆

ってか、すごいとこで止まってんな前作。
クリスマス?年末?正月?たまにはイベントに乗じて更新してみたいもんです(´д⊂)‥ハゥ

改めて「アンドロイドボーイ」お読み頂きありがとうございました♪
では。

(追記)
U様〜♪お久しぶりです♪
BL解禁の一番手に選んで頂きまして、もうホント恐縮です(汗)
遊びに来て頂いていきなり完結しましたが大丈夫だったでしょか……。
またよろしければお寄り下さい♪
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コメント

Re:u様

u様♪
コメントありがとうございます♪♪

いやぁ、BL解禁にこんな作品選んで頂きまして恐縮です^^;
ホントに、ちょっとした短編のつもりで適当に始めた作品だったんですが……長いからって期待して読んで下さった方々に申し訳ない気持ち(´д⊂)‥ハゥ
あ、でも少しでも萌えを提供出来てましたら光栄です〜♪

次回からの前作再開もスマホからの投稿になるので、ちゃんと書けるかむっちゃ不安……(:_;)
今ちょうど半分くらい書きましたが、はぁ……(´;ω;`)という感じ。
皆様に楽しんで頂けるよう頑張ります。
なんとか今年中に1回更新したいな〜(´Д⊂ヽ

こんなんですが、よろしければまたお寄り下さい♪

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Re:C様♪

C様♪
コメントありがとうございます♪

皆さんに応援して貰ったおかげでなんとか完結できましたー(^O^)/
本当に最後までお付き合いして頂きまして感謝です!

おお!あと一ヶ月ほどに迫りましたか!?
確かに引っ越しってどれだけ頑張っても直前でばたばたしますよね〜。
私もテストは始まる前3時間が勝負!テスト前夜に寝れた経験が無い女ですのでその気持ち分かります。

大阪もどんどん変わって、この間久しぶりに梅田に出てみたら、もうさっぱり知らない街でした(TдT)
元々方向音痴とはいえ、もう完全にアウェイだなこれと思いながら、息子と一緒にHEPの観覧車乗って帰って来ました。

これからいよいよお忙しくなるでしょうが、体調崩さずご自愛下さいませ(^^♪

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Re: けいったん様♪

けいったん様♪
ついに完結〜!!
最初から最後まで毎回来て頂きまして、もう本当にありがとうございます(´д⊂)‥ハゥ
こんなダメダメな私が最後まで書ききれたのは、ホントに拍手やコメント下さる読者さんのおかげなんです(T T)
特にけいったん様には毎回コメント頂きまして、多大なやる気を貰いました。
もうホントけいったん様には足向けて寝れない……(TдT)

今年も残すところあと少し!
早い……早すぎるよ、1年。イヤだー!まだまだやり残した事が!(つд⊂)エーン
そして正月休み。息子達と旦那により家がぐちゃぐちゃになると思うだけで憂鬱に……。

うちもアベノミクスなんてさっぱり来ませんぜ^^;
オリンピックが東京に来る方が早いんじゃなかろうか。

イベント盛りだくさんの年末年始!
どうかけいったん様も体調崩さぬようご自愛下さいませ♪♪
ありがとうございました(^O^)/

Re:A様♪

A様♪
コメントありがとうございます♪♪

そしてそして、こちらこそ最終話までお付き合い下さいまして感謝ですm(_ _)m

久遠の元カノ、どうなんでしょうねぇ( ̄ー ̄)ニヤリ
再開する「転じて吉」で、そのうち彼らもちょこっと登場予定☆
気が向けばSSくらい書いてみてもいいのか……
久遠と二条院、2人の行く末を見守って頂けると嬉しいです♪

ああ、それにしても甘々ラブシーンで止まってる前作を再開させるのが怖い。
ちゃんと書けるのか……相当ビビってます^^;
A様に楽しんで頂けるよう頑張りますね!!

16さま、完結 お疲れ様です(o*。_。)oペコリ

「狙った獲物は逃さない~♪ 既にお前のハートは 私のものだ~♪」
好きで好きで 仕方がない!とは、言えないのに こんな言葉は 高らかに言い放てるんだね。
いくら 歌詞だからって 聞いてる方が 恥ずかしいわ!(//▽//)キャハ

妹美優には 学の気持ちなんか 全て まるっと分かってしまっているんだねー
しかし 恐ろしい武器で お兄ちゃんに 本当の事を白状させるとは、中々の女子だわ♪(@´゚艸`)ウフウフ
久遠と学に 今後 何かあっても いい相談相手になってくれそうで 同性として 頼もしい美優ちゃんに エールを贈らせて頂きます!
フレーフレー※o(▽ ̄*)ノ美優ちゃん※\(* ̄▽ ̄*)/※ガンバレガンバレヽ(* ̄▽)o※美優ちゃん♪


今年も あと少しとなり クリスマス、大掃除、 年始に向けての準備と 慌ただしい時期ですね。
更新も 何かと難しいと思いますので あまり無理をされない様にして下さい。

そして クリスマス&お正月のイベントが控えていて みるみる内に お金が~~~!
しかし 世間で言われてる アレ、アレ、アベノミクスですよ!
何所で 寄り道しているのか、隠れんぼしているのか、我が家には まだまだ来てくれません。
オカネェ、ガァ~(/T▽)/ ~”¥” ~”¥”~...byebye☆

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