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アンドロイドボーイ[第28話]

第28話『黒髪メガネ』


 とりあえず登校してはみたものの、錆び付いたように重たい心と身体を教室まで引きずる気力も無く、寒空の屋上で死体のように転がっていたら夕刻になってしまった。

 希望の欠片一つない、月曜の夕暮れである。

 旧校舎の屋上に向かう途中、珍しく人に出くわした。
 確か椎名という若い教師である。

 そいつは久遠とすれ違うなり足を止め「おい」と呼びかけてきた。
 久遠が振り返ると、二日酔いのような徹夜明けのような教師らしからぬ面持ちでぽつんと言った。

「誰、お前」

 久遠は一瞬言葉を失ったが「久遠、ですけど……」と小さく呟いた。
 ところが相手の教師が何の反応も示さないので、小さく「2年B組の」と嫌々付け足した。

 するとその若い教師は、確実に納得していないと断言できるいぶかしげな顔のまま、何も言わずに歩いて行った。 

 それから屋上で時間を持て余した。
 カバンの中を探ってみると、ずっと読みかけのまま放ってあった小説を発見したので、久し振りに開いてみる。
 世間では敬遠されがちな純文学というジャンルが、実は久遠の数少ない心の友である。
「エロ本の方がまだマシ」と妹に言われて以来、こっそり逢瀬を重ねるように読みふけっていたが、最近は読書をする気力さえ無くしていた。

 あまりにもその小さな文庫本にのめり込んでいたので、階段を上ってくる靴音さえ聞き逃していた。

 突如屋上の扉が勢いよく開いたので久遠は驚き、その拍子に手から本が滑り落ちた。

 扉から入って来た人物も先客を予想していなかったのか、驚いて足を止めた。
 それから幽霊を見たような表情でこちらを凝視した。

 しばらくして「出会い頭のドッキリをやめろと言ったのは、お前の方じゃなかったのか……」と、二条院 学は目を細めた。

「別にお前を驚かせるために、こうなった訳じゃねえ」
 さすがに視線を合わせるのは気まずく、久遠が顔を背けてバツ悪く言うと、二条院はこちらに歩きながらフンと鼻をならし「まったく……誰かと思った」とブツブツ言った。

「誰かさんにくらった一撃のせいで、コンタクトにドクターストップがかかった」
 そう言って久遠は鼻に手をやり、眼鏡をくいと上げた。

「ああ、それはお前が美少女アンドロイドみゆゆに鉄パイプで殴られて、前科1犯の罪を犯したあの夜の事か?」
 二条院は皮肉を言って、久遠の隣に腰を下ろした。

 さて、その前科1犯のあの夜である。
 家に帰ってみると鉄パイプの一撃を受けた左腕と米上が思いの外痛む。その日は風呂にも入らず寝て、次の日の朝シャワーを浴びて出てくると、一度外したコンタクトレンズがどう言う訳か痛くて入らない。
 鏡を覗き込むと、左眼が充血している。

 休みの日に開いている眼科を探して行ってみると、診察室に入るなり、しばらくコンタクト禁止という診断が下された。

 仕方なく手持ちの黒縁メガネをかけていると、そんな時に限って妹二人が絡んで来やがる。

「あら翔ちゃん、どうしたの? その眼鏡。金髪に黒縁メガネで更にピアスだなんて、あなたお母さんをバカにしているの? 何でもやると決めたらトコトンやり抜く! 中途半端はお母さん一番嫌いですよ? 金髪に黒縁の眼鏡をかけるくらいなら、首にヘビを巻いて歩きなさいな。オホホホ」
 これは母の真似である。
 怒っているのか馬鹿にしているのか分からない喋り方がそっくりだ。
 どこまで本気か分からない事をいつも言って、実はどこまでも本気という恐怖の女である。

 するともう一人の妹が「おや、ちょうど良かったお客さん! 只今わたくし絶賛、美容師志望中でして、今ならお安くしておきますよ!」ときた。
「あらぁ、ちょうど良かった! うちのボンクラ変態息子、お願いしますわ! ほらぁ、年頃の超可愛い天使のような双子の妹がいますでしょう? 万が一、息子のせいで近所でバカにされたら大変ざましょ」
「いやぁ、さすが久遠さんとこの奥様! 分かってらっしゃる! わたくしめに万事お任せあれぇぇ!」
 妹二人は寸劇を披露し、手にはいつの間にか市販のヘアカラーの箱をカタカタいわせている。

 こうなると止めても無駄。妹達の悪乗りを放っておくくらい、二条院の我慢に比べれば他愛ないと覚悟を決めた。

 妹共はこうでも無い、ああでも無い、あっしまった、まいっか、やばくね、マジめんどい、髪死ねなどと連呼しながら久遠の髪をやりたい放題して、あげく傷心の兄からお守り代わりの一万円札を略奪して去って行った。
 まさか一万の大台を要求してくるとは思ってもみなかったので、久遠も相当抵抗したが「首にヘビを巻かなくて済むのは誰のおかげだ」と一喝された。ただの悪徳業者である。消費者センターにお世話になる日も近い。

 結果、久遠は黒髪に黒縁メガネという葬式仕様に変身した。
 一度鏡を覗いたが、ゾッとする程冴えない男が写っていたのですぐに見るのをやめて、ピアスも全て外した。
 それ以来、一度も鏡を見ていない。

 そういう訳で、すれ違った教師や二条院が驚くのも無理はない。

 久遠は数え切れない程吐いた溜め息を、また深く重ねた。

 二条院を見ると、下を向いて何かをじっと眺めている。その視線を追い、久遠はハッとして文庫本を拾い上げ、隠すようにしまった。
 そそくさとカバンを肩に掛けて立ち上がる。

「ぁ……どこ行くんだよ」と二条院が口走った。

「どこって。帰んだよ」
 振り返ると、もろに真正面から視線が合ってしまい、久遠はうっと息をのむ。

 少しうろたえた様子でこちらを見上げる二条院。
 それは紛れもなく悪名高い俺様メガネのはずなのだが、こうやって見ると、間違いなく美少女アンドロイドみゆゆでもある。
 抜群に好みの顔。容赦無い可愛さ。
 二条院が眼鏡を外した時にだけ感じていたときめきを、眼鏡装着時にも感じてしまうとは、我ながら深手を負った。

 いつも教室で見ている俺様メガネは、二条院 学のほんの一部分でしかない。あの眼鏡レンズの裏にどれだけの秘密が詰まっているのか、久遠は少しだけ垣間見てしまった。

 別にアイドルが好きな訳では無い。
 沢山の秘密の底に隠された、俺様メガネでも無い、美少女アンドロイドでも無い、美優の堅実な兄でも無い、ただの素の二条院 学に惹かれた。
 しかしそれに手を伸ばすには、あまりにも身の程を知らなさ過ぎたのかもしれないと久遠は思う。

 二条院の白い首筋に目がいき、どくりと血がざわめいた。
 一緒にいることで、これ以上二条院を傷付けるのも犯罪者になるのもごめんだ。

「学……」
 ぼんやりと口にしたが、この名を呼ぶのも最後だろう。

「この間の夜のことは……本当に、悪かったと思ってる。
 取り返しのつかない事をしたし、謝って許してもらえるとも思ってない……ただーー」

 顔を上げると二条院は僅かに苦しそうな顔をしていた。
 これ以上は聞きたくないという辛そうな表情。

「ただ俺は……お前のことが、本気で……好き、なんだ……」

 久遠は言葉を切って、肩の力を抜いた。
「ま、お前は無意味だって笑うかもしれないけど……。あの時はちゃんと言えなかったし、最後だから一応気持ちは伝えとく」

「じゃあな」と言って、久遠はまた背を向け歩き出した。

 やはり、ことごとく救いようの無い、月曜の夕暮れである。




【後書き】 ああ、だめだ!
やっぱり長すぎるので二話に切ります(T_T)
せっかく今回完結出来ると思ってたのに……すみません。
次回完結〜^^;
期待せずにお待ちあれm(_ _;)m
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コメント

Re: R様

キャー(^m^)
コメントありがとうございます♪♪
背中を押して頂いたので、先程「えい!」と最終話の更新してきました〜♪♪
次回からの「転じて吉」楽しんで頂けるように頑張りますねー!

ありがとうございました♪♪

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Re:けいったん様♪

けいったん様♪
コメントありがとうございます♪

ホント久遠、実はなかなかの真面目君。
私もこんな兄がいたら好き勝手遊んじゃうなー(笑)

一筋縄ではいかない彼等、次回最終話でどうなることやら。
ああ、そんな('∀`)1話伸びて嬉しいなんて言ってもらえると涙が出ちゃう(´д⊂)‥ハゥ
いやでも、そんな大した最終話じゃないんだー!!(つд⊂)エーン ここでこっそり叫んでおこう……。
どうか期待せずにお待ちあれm(_ _;)m



Re: A様♪

A様♪
コメントありがとうございます♪♪

意外と反響があった今回^^;
そうか……みんなこういうギャップには結構弱いのね^m^

実は久遠君、私の作品の中ではトップクラスの常識人。
一番大人!と見せかけて、結局好きな人には弱いという……可愛いのう('A`)y-~
作者に代わって、その常識力でこれからも作品を引っ張って行ってほしいm(_ _;)mお願いします

ということで次回完結〜♪
なんだか皆さんの期待には応えられないような(T_T)
期待せずにお待ち下さいませ♪

じぇじぇじぇ~~Σ(=゚ω゚=;ノ)ノ

パツ金、ピアスなチャラ男が、黒髪に眼鏡男子に 変身!
何だか 新鮮で いい♪(*´・ω-)b ネッ!
しかし 久遠って お節介なほど親切で 結構 根は生真面目だから ハマり過ぎて 面白くないかもねー
双子の妹も 楽しそうに 久遠を弄り倒してけど、きっと 私と 同じ事を思うに 違いないわ!(⌒^⌒)b うん
その時は 真っ赤にでも 染めてみる?(笑)

二条院と会って あの事を まだ引き摺っている久遠は 思いっきり キョドっていますが、二条院は 案外 平気そうだな~
それが 彼の 一筋縄では行かない 曲者さを 表している様で…

16さまには 可哀想だけど、完結が 一つ先に延びて 私は 嬉しいです
だって まだ 読めるんだも~ん♪v(≧∇≦)v イェェ~イ♪ 

純文学に 癒されてます(-□ 。□-).ゞ byイメチェン久遠...byebye☆


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