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アンドロイドボーイ[第12話]

第12話『恋人ごっこ』


「学……。そろそろ、いいか……?」

 久遠は声をかけながら、二条院 学の肩をぽんぽんとやった。

 死んでいるーーように見えた二条院は、実は死んでいない。

 そしてどうやら、恐らくーー熟睡している。



 20分程前。

 コンクリートの上、豪快に広がる血の海に、うつ伏せに転がる二条院の死体ーーと、当初は思い込んでいたのだがーーを見て、恥ずかしくも腰を抜かした久遠は、しばらくその場を動けずにいた。

 最初に違和感を感じたのは、鼻をつくペンキの臭い。
 勇気を出し、四つん這いの姿勢で二条院に近付いたのは、スースーと穏やかな寝息のような音に気が付いたからだ。

 間近でよくよく確認してみると、血だと思っていた液体は血ではなく、赤いペンキを薄めたようなものだった。
 まるでバケツをひっくり返したかのような有り様だと思っていたが、やはりと言うべきか、すぐそこにそれらしいバケツが一つ転がっている。

 死んでいない。生きている。そしてなおかつ寝ている。
 そう結論が出るまでに、それほど時間はかからなかった。

 どういうつもりでこんな行為に及んだかは検討もつかないが、二条院の思考や行動は前々から、かなりイタいところがあり、久遠には到底理解が出来ない。このさい飛びきり好みの顔をした別の星の生命体として割り切ることにしよう。

 名前を呼びかけても起きないので、そっと頬に触れてみる。
 真冬の外気のせいでひんやりとはしているが、それでもやはり生きている温もりがある。
 そして赤ん坊の肌のようにすべすべとして、柔らかい。

 指先を二条院の細い首へ滑らせると、小さくどくどくと鳴っている。なぜか喉の奥がきゅっと締め付けられた。

 二条院が起きないのをいいことに、唇に触れて柔らかさを確かめてみたり、襟から服の中に手を滑り込ませてみたりすると、時折「っん……」と艶っぽい声を出して、眼を閉じたまま眉をひそめる。それでも起きそうで起きないスリル。
 大好きな玩具を手放せない小学生のように、気が付けば久遠はしゃがみこんで夢中になっていた。

 しばらくし、ようやく理性のストップがかかったところで、少し大きめの声で二条院を呼び、肩をぽんぽんと叩いた。




 ぱちりと見開き、眼鏡の奥で大きな瞳が揺れる。

 寝ぼけ眼(まなこ)で起き上がろうとした二条院は血の海ーー赤いペンキの海ーーに手をつき、「ぅわ、何だこれ……」と小さな声で独り言を言った。
 百歩譲っても、それはこちらのセリフだが、久遠はその様子をじっと眺めていた。

 起き上がった二条院は、自分の周囲に広がるペンキの海や、赤く染まる自分の制服を一通り眺めた。

「よく気が付いたな。俺が死んでいないと」
 膝に手をついて立ち上がり、俺様メガネは平然と言った。

「いや、だって普通に息してるし……。
 だいたい、これどういう死因なんだよ」

「ざっくり言えば変死だな。首を絞められかけて、最終的には特殊な毒薬で毛穴から血が止まらなくなって死ぬ、誘拐犯の役だ。
 演劇部の助っ人も、生徒会委員の大切な仕事だからな。
 血糊の出来を確かめるためにも練習をしていた。
 どうだ? ドキドキしたか?」

「ん? うん……そりゃあドキドキはしたけど」
 それはもう警察に電話をしなければという類のドキドキだったが。

「そうか、よかったな」と、二条院は制服をぱんぱんとしながら、満足気に言った。
 何がよかったのかは定かでは無いが、どうやら二条院の目的は達せられたようだ。

「あのなぁ……学ーー」
 今朝の一件から今に至るまで、あまりにも多くの注意事項がありすぎて、いったい何から話したものか。
 まず恋人という言葉の定義から説明しなくてはいけないのかと、久遠は溜め息混じりに二条院を見つめた。

 二条院はペンキがこびりついた眼鏡を外して、一度レンズをよく眺めてから、すとんとポケットに落とした。

 それから相変わらず可愛い顔を、こちらに向けた。

「会いたかった……すごく!」

「ぅおッ……」

 いきなり二条院がきつく抱き付いてきたので、久遠は声をあげて、また背中を壁に打ち付けた。

「ずっと……、授業中もずっと、翔のことばっかり考えて……。ずっと見てたのに、どうして俺の方、見てくれなかったんだ?」

 そう言って二条院は、力いっぱい久遠の胸元に顔を埋めた。

 この急展開と二条院の豹変振りに乗り遅れた久遠は「いや、それは……」と間抜けな返事をして、二条院の顔を繁々とのぞき込む。

「な、なんだよ……」と、二条院がむくれる。

「あ、いや。案外、積極的なんだなぁと思って……」

 その言葉が余程気に障ったのか、二条院は急に俺様らしく怒り始めた。
「当然だ。こっちだって、お前が少しでも自然に恋人を演じられるように、気をつかってやってるんだからな!
 だいたい、もし『みゆゆ』と付き合った時に、彼女が超積極的だったらどうするんだ!」

「あぁ、まあ……そりゃそうだな」と適当に答えると、「ふんっ」と横を向いて、二条院はまた久遠の胸元に顔を押しあてた。

 機嫌直せよと二条院の前髪を優しく撫でるが、「そもそもお前がーー」とまた文句をたれながら顔を上げたので、久遠は二条院の唇にそっと指を押しあて、そのままキスをした。

 優しく優しく、溶かすように。

 ちゅっと音をたてて顔を離し、「ごめん、俺が悪かった」と早々に非を認めた。

 経験上、これが一番早く収まる。

 ややうっとりとした二条院は、物思い気に瞳を泳がせた。

「俺も会いたかった、ずっと……。二人で会って、いっぱいキスしたかった」

 久遠が言うと、二条院は頬を染めて、上目使いにこちらを見上げた。

 その表情に堪りかね、ぎゅっと抱き寄せて、また唇を繋げる。
 今度はぷっくりとした唇をこじ開けて、じゃれ合うように舌を遊ばせた。

 だらだらと長く、徐々に深く絡(から)まっていく。

 気がつくと、脚を伸ばして腰を下ろした久遠の上に、二条院が向い合わせで乗っかった状態で抱き合っていた。

 上半身を密着させて、二条院の両腕が久遠の首に絡まり付く。

 どれくらいそうしていたのか、くちゅくちゅと唇から漏れる水音の向こうで、携帯が震える不快な音を確かに拾ってはいた。だか久遠はそれを認めたくなくて、より一層、小さな背中を抱く腕に力を入れた。

「んぅ……ん、っだめ……もう、行かな、きゃ……。生徒会の、時間だ」

 額をこすり合わせたまま、なまめかしく光る糸をひいて、濡れた唇が離れていく。
 もう充分堪能したはずなのに、執拗な行為を思わせる紅(あか)く張った唇を見たそばから、また欲しくなっていく。

 どうしてこうも、女と付き合っていた時とは違うのだろう。

 二条院はポケットから携帯を取り出して、アラームを消した。

「さすがに忙しいんだな」と久遠が言うと、「まあな」と二条院は答えた。

 携帯をポケットに入れて「じゃあ」と小さく言ってから、座ったままの久遠に二条院は背を向けた。

 二条院の背中を横目で追うと、少し離れた所で小さな背がくるりとこちらにひるがえった。

「あ、また連絡する」

 そう言って、なんと二条院 学は、眼が覚める程の魅力的な顔で、嬉しそうに微笑んだのだ。

 遠目で見ていた久遠は、壁から背中を離して、眼を疑った。

 少し照れた様子でこちらに小さく手を振る姿に、完全に意識を持っていかれる。

 久遠が返事も出来ずに、ただ手を軽く上げると、二条院はまたくるりと背を向けた。

 血まみれにも見える制服をまとい、可憐な足取りで走っていく期間限定の恋人が、かくも魅力的かと久遠は焦った。




【後書き】
ほんとは二話に分ける予定でしたが……一緒にしたら長くなりました。
こうやってどんどん長くなっていくんだよね……(*_*)

もうだめ、寝落ちです。
次話は、出来れば今週中に……f(^_^;
おやすみなさい。
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コメント

Re: けいったん様

いつもありがとうございます♪

ほんと振り回されっぱなしの久遠ですが、恋人ごっこから本物の恋人になる日がくるのやら……。
二人の距離が縮んで、重なり合う(気持ちとか……あとほら、いろいろ)時が来ますように(..)

またお待ちしてます\(^o^)/

よし!今から書くぞー!!

No title

ラブコメ転じて サスペンスラブに!!と、思えば…
な~んだ そういう事だったのねー(* ̄ρ ̄)”ほほぅ…

私の予想通り 二条院に振り回されている久遠の姿に 少し ほんの少しだけ 憐れみを感じてしまうのは 仕方がないですよね。

久遠… 
あんな二条院を 本当に 好きなんだね~
その気持ちの  ヒトカケラでも 二条院に伝わればいいのに…

16様、BLの要素無し!と、仰ってますが、
祐と冬馬の時もそうだけど この2人の距離が 気持ちが 徐々に縮んで 重なり合って(←気持ちですよ!気持ち…(笑))行く過程が 好きです、私♪

恋人ごっこが いつ 本当の恋人となるのか 楽しみだなぁ~
8(´∀`8*))♪ワクワク♪((*8´∀`)8...byebye☆
 

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