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転じて吉 [第三話]

『末吉』

 
 近くて遠い二人の距離を、たっぷりと白濁を満たした木のスプーンが、ゆらゆらと揺れながらまた行き来する。

 今にもとろりと垂れ落ちそうになるのを、成宮はすくうようにして口へ含んだ。

 日本人形のように整った指先。細い手首から小さな肩。赤く上気した首元に、陶磁器を思わせる肌理細かな肌。頬を染めて、貴崎祐は少し困ったような顔をしている。
 その様子は酷く艶っぽいと思えるのに、一方で孤高な神聖さや、触れがたい清潔感を失わない。

 本当に食べたいものは、スプーンから向こう側の部分。味気の弱い日本粥に比べ、あまりにも魅惑的な果肉だと成宮冬馬は思い悩む。

 会話の無いまま食事は進む。
 一口食べてはその都度眼が合い、視線が絡まり合って解けなくなる。
 複雑に絡まったそれを、祐が悩ましげに引きちぎる度に、成宮の奥底で巣くっている何かがぶくりと体積を増し、熱を帯びていく。

 祐がこんなにも近くから成宮を見つめてくれるなんて。
 どんな思いで成宮にスプーンを差し出しているのか。それは猛獣の餌付けさながらで、未だ力が入りっぱなしのスプーンを持つ手が時折震え、粥がこぼれて慌てた様子を見せる。
 その一つ一つの仕草を見逃さないように、片時も目を離さず祐を観察する。

 粥の茶碗が空になるころには、とり憑かれた様に祐を至近距離で見つめ続けていた。
 風邪でもないのに完全に熱にあてられた状態で、ただ口だけをくちゅくちゅと動かして無味無臭を飲み下す。

 一仕事終えたというように、ふうと息を吐いて祐が立ち上がった。
「……林檎、食うか?」
 ガラスの器を手に取り、また椅子に腰をかける。

 静かに口元までやって来た林檎に、裕から視線を反らさぬまま、がぶりとかぶり付く。

 甘酸っぱくてみずみずしくて、仄かな蜜の味が口内に残る。
 きっと祐も、こんな味に違い無い。

 目元を薄紅に染めて、伏せ眼がちにこちらを眺める祐。
 誘われているのかと勘違いしそうになる。
 これが祐に似ただけの女であれば、何のためらいもなく抱き寄せてベッドに押し倒すのだが、祐の場合はそうはいかない。

 なにしろ、成宮には後がない。
 今まで以上に嫌われる事は、この世の終わりを意味する。
 そして奇跡的にも、今こうしてせっかく関係が縮まりつつあるのだ。

「上手いか?」
 不安げな顔で、祐が僅かに首を傾げた。
 
 その無垢な仕草を堪能しながら、成宮は新鮮な果肉をかみ砕き、祐の体液のように思える甘くて濃い果汁をごくりと飲み込んだ。

「うん。すごく……」
 それを聞いて嬉しそうに微笑む祐の笑顔が、また成宮の意識を吸い取っていく。
 なんて可愛いのだろう。

 やっぱりこれは、全部俺のものだ――。
 誰にも渡さない。

 一瞬そう脳裏をよぎった後、まずいことにまた息苦しさがぶり返し始めた。
 さっきとは違い、心臓を鷲掴みにされるような耐え難い圧迫感が伴う。
 奥歯を噛み締めて隠そうとしても口角が歪み、眉をひそめる。
 首の後ろに汗が噴出す。

「冬馬…? しんどいのかっ!?」
 慌てた祐が椅子から立ち上がり、こちらを覗き込んだ。

 人形の指先が成宮の前髪と額の間にするりと割り込み、ひんやりとした感触だけを残して一瞬で遠ざかっていく。

 次に目の前に現れたのは、浄瑠璃人形のような小さな顔だった。

 長い睫毛に潤んだ瞳。
 成宮は痛みも忘れて、息を止めた。

 互いの額が触れ合う。

 祐の香りだ――。 
 それに、祐の肌――。

 どうしてこんな事――。

 どうしてこんなにも成宮苦しめるのだろうと、怒りにも似た困惑が襲う。
 次の瞬間――思考が飛んだ。

 身体が勝手に動き出す。

「ぅあっ……!」
 祐が驚いて声をあげる。

 小さな肩をつかんで押し倒し、成宮の指が余裕をもって一回りする細い両手首を捕えて、シーツに押さえ込んだ。
 ベッドが軋む。
 暴れる身体に体重をかけて自由を奪うと、手にぐっと力を込めた。

 気がつけば、ベッドの上で覆いかぶさるようにして真正面から祐を見下ろしている。

 乾きかけていた前髪から雫が滴る。
 獣のように荒く速い呼吸。

 衿元から露になった祐の白い首筋が、美味しそうに脈打っている。

 祐が、祐が悪いんだ――。
 小刻みに震えている薄い唇を見つけ、空っぽだった中身が満たされていくのを感じる。

 ところが、何もかも覚悟したかのように、祐が静かに瞼をとじたので、成宮は急に怖くなって力を緩めた。

 美しい顔立ちは、来るべき時を待ち、全てを捧げようとしている――ようにも見える。

 そのせいで、急激に現実に引き戻されて我に返る。

 どうしようもない無力感。
 何がしたかったのかが分からなくなった。

「き、貴崎は――、他の友達にも、こんな風に、優しい、の……?」 
 祐を押さえつけたまま言う。
 
 数秒がとてつもなく長く感じられた。
 惨めなほどかすれた途切れ途切れの言葉を、なんとか喉の奥から振り絞る。

「食べさせて、あげたり……肌で、熱、計ってあげたり……っ。他の奴にも、こんなこと……」

 哀れで愚かしいと、自分でも思う。
 
 もう取り返しがつかないのかもしれない。
 近くでじっと、ただ堪えてきた十年以上の月日。

 それでも抑えきれなかった。
 どうしようもなかった。

 瞼を開けた祐は、とても悲しそうな顔をした。そして静かに首を横に振った。
 成宮は「そう……」と低く呟き、身体を起こす。

 ひどい眩暈を感じ、膝を立てて頭を乗せる。
 座り込むことが精一杯で、そのままうなだれるようにして壁にもたれ掛かった。

 何もかも無くなればいい――。
 消えてしまえれば、どんなに楽だろう。

「貴崎は……。自分では、分からないだろうけど、貴崎は、す、すごく……かわ、い……いから、だから――」

 独り言のように小さくて、抑揚のない声。
 何を言ってるんだ俺は――。

「だから……貴崎は友達のつもりでも、相手はそうじゃなくなってしまう……と、思うよ。貴崎が想像も出来ないような事を、相手は考えて、しまうかも、しれない……。男とか、女とかは関係なく、ね……」

 そこまで言って言葉を切り、ため息をついた。
 額を膝にあてて俯く成宮の横で、祐は押し倒されたままの状態でぴくりともせず仰向きに寝ている。

「だから、気をつけたほうがいい……。これから、好きな子や、新しい彼女が出来たら、そういう事が、
妨げに、なるかも……しれない、から……」

 祐が起き上がった気配を感じる。

「――っても、いい……」
 たっぷりと水気を含んだ祐の声。
 
「え……っ?」
 消え入る微かな声を放って、成宮は顔を上げた。

「付き合って、やっても、いい……」

 にじむ視界の中で祐は俯き、言った。




【後書】ε-d(-∀-` )フィ~。一週間ぶりの休日です。
 更新お待たせ致しました~って、待っててもらえれば、の話ですが(;^ω^)

 祐が無口なばっかりに、さっぱり会話がないこの二人……(´-∀-`;)
 今回まではやや重たい雰囲気なのですが、続編らしく少しずつ軽い雰囲気に持っていければと思います。もっと沢山おしゃべりしなきゃね~祐(゚´Д`゚)ヾ(´∀`*)ヨシヨシ

 いつも展開メインの話ばかり書いているので、動きの少ない恋愛メインのお話は、こんな感じでいいのだろうかと不安です。心理描写ばかりで、ちょっと退屈な気もします。ほんでもって短いしね(´-∀-`;)

 今回も約三千文字♪
 長いの大好き~と言って下さる方もいるのですが(*pωq*)テレッ☆まあ続編なので、ブログ小説らしくこんな感じで(@´゚艸`)ウフウフ 
 ちなみにいつもの私なら、前回と今回、次回までの内容が一話分として納まります。怖いよね、いつもの自分が('・ ω・`)モキュン♪

 今日は大阪は朝から雨。久し振りにヒンヤリして、ホットカーペットをつけたい気候です。今は雨があがって、ちょっとだけ明るくなってきたかな……。
 今から、前回頂いた分のコメレスを書きますね~(コメント頂いた各場所にお返事させて頂きます)♪♪
 昼からは、久し振りにイラストでも描くかな~ルン♪((o'д'))ルン♪ 

 
 
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テーマ : 自作BL連載小説 - ジャンル : 小説・文学

コメント

イキマイン様お返事♪

イキマイン様♪♪
(人'д'o)☆゚*。はじめまして。*゚☆(o'д'人)

このような弱小BL小説ブログにお越し頂きまして、さらにコメントまで頂きまして、ありがとうございます♪感謝☆(人゚∀゚*)☆感謝♪
面白かったですか!? いやもう、初めての方にそう言って頂けると恐縮です。

本当に暑かったり寒かったりで、精神的にも不安定になりやすい時期ですよね(ノД`)シクシク
あまり無理せず、少しでも皆さんに楽しんでもらえるお話が書ければと思います♪

このような季節ですので、イキマイン様もどうかご自愛下さいませ(*´ェ`*)ポッ
これからも楽しんで頂けると幸いです☆
またお待ちしていますね~♪♪
(人'▽`)ありがとうございました♪

初めまして!

めちゃくちゃ面白かったです。寒かったり暑かったりしますが…体調に気をつけて下さいね(^-^)五話楽しみにしています!

A様お返事♪♪

A様♪ いつもありがとうございます♪♪

Σ(゚Д゚ノ)ノオオォッな、なんと!! 祐にそっくりな少年とな!?
見たい見たい♪ 見たいで――す♪ キャァ♪(*ノ∀ノ)キャァ♪(*ノ∀ノ)

あ、是非ともこちらに送って下さい→juuroku1616@yahoo.co.jp  対応早っ!!Σ(;゚Д゚ノ)ボスケテ!!
別に公開してもいいアドレスなので♪♪ 週一回程度しかチェックしないので、メールしましたと一言頂けますと、飛んでチェックしに行きます!! なんて迅速な対応なんだ、私。

実は読者様が思っておられる程、具体的な登場人物の顔のイメージって無いんですよ~♪ 芸能人で言うと、あの人ってのも、あんまり無くて(;^ω^)
でも読んだ方が、どういうイメージを持っておられるのかすごく気になるし、それを教えて頂くのがすごく楽しい!!(*´・д・)*´。_。)ゥミュ

あ、第四話にはまたまた貴崎兄の影が!?

またお待ちしておりますね~♪♪
ありがとうございました(ωV_vω)ペコ

C様お返事♪♪

C様♪ いつもありがとうございます♪♪

もうコメントはどこにでも書いてやって下さいませ~キャッ♪(*ノдノ)
こんなに返事が遅い癖に、実は毎日ちゃんと携帯から確認してはニヤニヤしておりますので(変態)

お返事を書く場所は、どこが一番読みやすいのですかね~??(´゚∀゚`;)

学生時代、授業中手を上げたことが数える程しかない内気なダメ人間の16。仲良くして頂いてるブロ友さん以外は、実はあんまり人様のブログにコメントを残すことがありませんので、どうなんだろうと考えるも、あんまり分からず(*゚Д゚) アレ?

今年の梅雨入りは激早だそうで、その上梅雨明けは例年通りってどういうことや!!??
C様もどうかお体ご自愛下さいませね♪♪
私も早くおめでたの報告したいです(ノ∀\*)キャ
でも人手不足の職場に報告するのは怖いな~Σ(・∀・;)ゲェー
なんとか今年中には♪頑張ります♪ファイト━━(ノ゚д゚)人(゚Д゚ )ノ━━!!

けいったん様お返事♪

いつもありがとうございます♪♪

(ΦωΦ)フフフ・・おりますでしょう♪ ド変態が……♪

いや~、何故だが純粋な良い子を書くよりずっと書きやすいド変態(笑)
どうなんだろう……私(´-∀-`;)

彼、これからも暴走と混乱を続ける予定ですので、よろしくお願いします(ωV_vω)ペコ

あっ!! 第五話はもしかしたら久し振りの祐視点かも!?ってのを第四話の後書に書き忘れてしまった。←それを第三話のコメレスに書かれてもって感じですよね(゚∀゚ ;)

またお待ちしております♪♪
ありがとうございました♪感謝☆(人゚∀゚*)☆感謝♪

鍵コメlimeさんお返事♪♪

limeさ~ん(*」>д<)」オォ───イ!!
お忙しいのにいつもありがとうございます~(人'▽`)ありがとう☆

Σ(゚Д゚ノ)ノオオォッ 
どんどんlimeさんが危なっかしい方向へ(笑)
いえいえ! 大歓迎でございますよ~♪♪

書く本人がこういう(甘々とは程遠い)性格なもんで、なかなか読者さんに楽しんでもらえるか不安ですが、まあ自分なりに頑張っております(´-∀-`;)

limeさんのRIKUもどんどん甘い方向へ!?っと思っていたら、今日は題名に騙されましたビェ─・゚・(。>д<。)・゚・─ン!!
limeさんがR指定書いてくださる日をいつまで待っておりますよ~私は!!ヾ(=д= ;)ォィォィ

またブログにお邪魔させて下さいね♪♪
ありがとうございました┏○ペコ

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No title

「(o'ノ∀')ノお───ぃ!みなさ~ん! ここに  年季の入った ド変態が、いますよ~~!」

長年培った 冬馬のド変態ぶりは ちょっとやそこらで 壊れない 鋼のように強いんだい<(`^´)> エッヘン

冬馬から見る 裕の容姿に 吃驚してます゚+。(ノ`・Д・)ノオォオォ。+゚ そんなに 可愛い奴だったんだ!

でも 変態視線の 冬馬だからなぁ~
。+゚(ノω・、)゚+←------(゚Д゚*|  ヵ、ヵゎィィ・・・byebye☆

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