転じて吉 [第二話]

『吉のはじまり』 

 熱いシャワーを浴びてから二階へあがると、成宮はドアの前で足を止めた。

 首にかけたタオルで濡れた髪をもう一度ぬぐい、シャツの襟元をぱたぱたとやって火照った身体を冷ます。
 少しは気が紛れたか。

 浮ついた息を一度大きく吐きだして止め、ドアノブを握る。
 
 意を決して思い切りドアを開ける。
 すると同時にベッドの脇でびくりと小さく跳びはねたものがあった。

 怯えた小動物のように固まるそれが、両手で握りしめている物の正体に気が付き、成宮は思わず声を上げた。

「あっ……、それ――――」

 距離があってもすぐに分かる。
 なにしろ、この世に数少ない成宮の宝物である。

 どうしてそんなもの――。

 子供の頃から集めた膨大なコレクションの中から丁寧に時間をかけて選りすぐった一枚もあれば、金と時間をかけてずいぶん苦労して手に入れた一枚もある。

 毎晩寝る前に眺めたり、人には言えない用途にもよく使用する――幾枚もの写真。
 とにかく身体の近く、すぐに手の届く場所。そう思って枕の下に大切に隠してあったはずなのに。
 よりにもよって、祐に見つかるなんて。

 即座に奪い返せばいいものを、その手にした写真の束の中から今しがた抜け出して来たかのような、みずみずしく透き通った小さな生身の姿を前に、成宮は手も足も動かせずにいた。

 怯えているのか、怒っているのか、恥ずかしがっているのか、目尻を赤く染めて、それでも凛とした吸い込まれそうな漆黒の瞳。

 それが――その眼が、駄目なんだ――。
 それが、すべてを狂わせてしまう。
 首の後ろに新たな汗が噴出し伝っていく。

 祐は何も分かっていない。何も知らない。
 如何に危険かを。
 こんな場所に、二人きりで。

 成宮がその気になれば、いつでも――壊せる。
 いつでもめちゃくちゃに。
 いつでも思い通りに出来るのだと、その身体に教えてやることだって――。

 それとなくタオルを口元にあてて何とか視線を外し、意気込んでいたはずの呼吸を溜息に変えた。

 貴崎裕は部屋の隅まで歩いて行き、床に置いてあったカバンをつかみ取って無造作に写真の束をカバンに突っ込んだ。
 複雑な思いでそれを横目に眺めながら、どうして見つかったのだろうと不思議に思う。

「布団入れよ。湯冷めするだろ……」
 祐はこちらに向き直り、何も無かったかのように、目も合わせず静かに言った。

「うん、ありがとう……」
 幼なじみの枕の下から自分ばかりが被写体の写真が何枚も出てきたら、普通は気持ち悪いと怒りそうなものだが。成宮は少し拍子抜けした声を出した。

「その……、あのさっきの写真。友達から預かってたんだ。貴崎に渡そうと思ってたんだけど……、どこに置いたか分からなくなって……忘れてた、ごめん……」
 ベッドに入りながら祐の様子を伺い、厳しい言い訳で取り繕ってみるが返事はない。
 まあ普段から成宮の問い掛けに返事があるのは約五割。二回に一回の確率で裕は返事を返してくれない。だからいつも通りといえばいつも通りである。

 部屋を出る前より祐の姿が眩しく感じるのは、コートを脱いで僅かに露出度が上がったせいか。
 祐の私服を見るのは久しぶりだ。
 さっきのコート姿も良かったが、こちらもなかなかいい。
 祐が好む暗色系のトレーナーに、はき古した色合いのカーゴパンツ。サイズが大きめな所を見ると、お下がりかもしれない。

 昔はあんなに我が儘で泣き虫だった祐が今では、学校を休んだクラスメイトのために授業のノートを家に届けてくれる。
 成長したものだなと変な親心が湧く。
 本音を言えば、実際どのくらい成長したのか、服の内側が一番気になる。
 特に下着の中なんかは――じっくりこの目で確かめられたらなあ、と後ろ姿を舐めるように観察していたら、急に振り返った祐と目が合った。

 また顔を真っ赤に染めて裕が俯く。

「あ、ええっと……。来てくれてホント、ありがとう貴崎。嬉しいよ、わざわざ家まで来てくれるなんてさ。貴崎には言ってなかったけど、今親が仕事で海外だから、家に一人なんだ」

 一人暮らしをしていることや母親が死んだことは祐には言っていない。同情を買いたくないのは元より、私生活については祐に話せる事の方が少ない。

 乱れた生活を知られれば、幼なじみのクラスメイトとして祐の隣にいられなくなる。
 嫌われていてもいい、友達未満の関係でもせめて隣にいられるだけで。もうこれしか成宮に残された道は無いのだと思っていた。

 ところが今日の出来事は大収穫だ。
 元旦の自称告られ事件に加え、祐との距離が一気に縮まりつつある。
 病み上がりの混乱か何かは知らないが、それならそれで一生混乱したままでいてくれと願う。
 とにかく、これはもう友達と呼べる関係と言ってほぼ間違いない。

 と思っていたら、じっと黙りこくっていた祐が突然部屋から飛び出して行った。

 まだ――駄目、か……。




 何か気に障る事を言ったのだろうかと、しばらく真剣に悩んでいたら、突如部屋のドアが乱暴に開く。

 部屋に入って来た祐は、両手で食器の乗ったお盆を持っていた。どうやらドアは足で蹴って開けたらしい。

「腹減っただろ」と机の上にお盆を置いた。
 成宮がシャワーを浴びている間に用意していたのか、お粥が茶碗に盛られて湯気を上げている。
「わぁ、すごい……」と起き上がり、お盆の上を覗き込む。
 人に食事を用意してもらうなんて久しぶりだったので、素直に嬉しかった。
 それにたいそう美味そうだ。

「これ、貴崎が剥いたの?」
 皮を剥かれた小さな林檎がガラスの器の中でころりと転がる。

 目を伏せたまま気まずそうに頷く裕から茶碗を受け取ろうと手を伸ばすと、温かそうな粥がぎゅっと向こうに引っ込む。
 更に手を伸ばすと、抱き込まれるように茶碗は祐の小さな両手の中に納まってしまった。

 訳が分からず裕の顔を見上げると、思い悩んだような顔をしてそわそわと落ち着きのない様子だ。

 裕はベッドの脇の勉強机の椅子に腰を下ろすと、真っ白なとろとろの粥を木のスプーンにすくう。
 そして驚いたことに、震える手で成宮の口元にスプーンを差し出した。
 成宮は唖然とした。

「食べさせて、くれるの?」

 裕がまた泣きそうな顔で頷く。




【後書】(ΦωΦ)フフフ・・短かったですね、今回は。
このくらいが、読む方にとっては一番適切な長さらしい……三千文字くらい。

短い故か、全然展開がなくてダラダラしてしまいました。(;´・ω・`)ゞごめんなさい
なんかあんまり書いた気しない(´-∀-`;)
それもそのはず、実は毎日寝る前に、ベッドの中でダラダラ書いてます。
それも携帯で……(;^ω^)
案外携帯でも書けるものですねえ~!

まあ今回は続編ということで、ちょっとダラダラもいいかなと甘えております(@´゜艸`)ウフウフ
それより新作の内容がちょっとずつ決まって来たので、そちらが気になってしかたない……。
やりたい事や書きたい話は沢山あるんですが、なかなか上手く進みませんな(;^ω^)

これくらいの短さで、出来れば毎週くらい更新出来ればなと……。
どうか期待せずにお楽しみ頂ければと思います♪♪

ああ、もう歯医者さんに行かないと~。゜(゜´ω`゜)゜。ピー

また改めて前回出来なかったコメレス上げさせて頂きます♪♪
ではでは♪
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コメント

limeさんお返事♪♪

limeさん♪ いつもありがとうございます♪♪

そうなんですよ~……次回作。なんだか、一つ一つのシーンだけ妙に浮かんできてしまって……(´-∀-`;)
全体のプロットとかは、まだ全然なんですけどね。

私もlimeさんみたいにストックを置きながら更新をしたいですよ~。゚(/□\*)゚。わ~ん
って、もうかれこれずっと言ってる気がする。
最近ちょっとだけ携帯で文章書くことに慣れてきたので、まだマシですが……(;´・ω・)
でもやはり携帯で書くのは、大きな流れだけ。細かい手直しや全体的なバランスを見るには、パソコンじゃないと難しいです。゚(゚´ω`゚)゚。ピー

あ、こんな場所ですが、連載お疲れ様でした~!!
三作品続いたKEEP OUTとしばらくお別れだと思うと、ちょっと寂しいですが、次回はまたあの懐かしいメンバーに会えると思うと楽しみです♪♪
今から改めてブログにお邪魔してコメ入れさせて頂きます~♪♪

ありがとうございました(*・ω・)*_ _))ペコリン

A様お返事♪♪

A様いつもありがとうございます♪♪♪

゚+。ゥフフ(o-艸-o)ゥフフ。+゚祐は無自覚に誘っちゃってますね。第三話では成宮、さらに困惑、一人暴走しそうになっっちゃってます(´-∀-`;)
これまでは、ただただ焦って混乱している成宮でしたが、第四話からは少しずつお話が進む予定です。

その通り! 写真以外にも祐に隠していることが沢山あるぞ~成宮!!
その辺、しっかりと片付けてもらわなくては!!

そうですね~二人の距離が縮まった暁には……キュピ──(。☆д☆。)──ン

またお待ち申しあげております♪♪
ありがとうございました~♪感謝☆(人゚∀゚*)☆感謝♪


けいったん様お返事♪

けいったん様♪ いつもありがとうございます♪♪

そうなんです。こいつは本当に……(ついにこいつ呼ばわり笑)
長年片思いのせいで、完全に変態ストーカーの体質になってしまっている成宮(=Д=;)

第三話では、さらに勘違いして、一人思い悩んで突っ走っちゃって、沈んでます(´-∀-`;)

早く両想いになれるよう頑張れ~!! って、私が頑張んなきゃいけませんが(o´ェ`o)ゞエヘヘ

まだまだこれからも、成宮の変態気質が炸裂してしまいそうで怖いヤ──(*ノзノ*)──ン

またお待ちしておりま~す♪♪
ありがとうございましたβуё★ (o'ω'o)ノ ★ βуё

No title

続き、待ってました。
こっちは裕の気持ちが分かってるから、成宮の焦りが、ただ可愛く映る^^
大丈夫だよ、心配すんな、行っちゃえ~とか、けしかけたくなるダメな読者。
なんだかそわそわ、わくわくする続編です。

で、16さんの中はもう、次回作のアイデアが?
それは嬉しいことです。
書きながら、次回作のアイデアにうずうずするという経験がないもので、うらやましくもあります^^
とにかく、もろもろ、楽しみにしていますね。
次は何が飛び出すやら。

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No title

裕が、何も言わなくたって その染めた目尻を見れば 分かりそうなのになぁ~(*・ω・*) 照

過去 一度も 振り向いてくれなかった裕が 今は 成宮を ”好き”だとは 考えもつかないのでしょうね。
まぁ 仕方がないですけど...ε-(‐ω‐;)
病気であるにも係わらず 裕を 邪な感情を見ている冬馬ですから 元気な時は も~っと エロ視線で見てたのは 間違いないでしょうし、100%!

ストーカーみたいに集めた写真で いっぱい 一人遊びをしたでしょうし~フフフ ( ̄+ー ̄)キラーン

お粥を作って リンゴを剥いてくれて ・・・今までの裕が 絶対にしない行動を もう一度 考えてみようね~♪
( *^-^)ρ(^0^* ) あ~ん...byebye☆

Unknown様お返事♪♪

さっそくのコメントありがとうございます♪♪

先ほど歯医者から帰宅致しました(´∀`)

夕飯の準備までの間、週に一度のパソコンを開ける貴重な時間♪ せっかくなので、パソコンに触れられる今の内にお返事書いちゃおヾ(*´∀`*)ノ キャッキャッ♪

そうそう♪ 今回ほとんど喋らない祐ですが、隠し撮りされて、枕の下にしまわれていた写真を、しっかり徴収致しました(;^ω^)
やっぱり風邪といったら『あーん』は欠かせませんな(@´゚艸`)ウフウフ 古典的なとこがまた好き(゚∀゚)ラヴィ!!

なんだかんだでいつも亀更新なので、確証はありませんが、出来るだけ早めに……(;^ω^)
今回はちょっとダラダラと息抜いて行こうかと思いますので、暇な時にお立ち寄りくださいませ~┬|o'ω')∂))
ありがとうございました♪♪

No title

コメントの続きです。→冬馬の隠し持っていた写真、実はお金で買われていたんですね・・・。野木あたりに撮らせていたんでしょうか?本当に、着々と距離が縮んで来てるようで、冬馬が襲い掛かるのも時間の問題ですね♪下の成長も気になるようで・・・。カーゴパンツのお下がりは兄貴あたりからでしょうか?微妙な兄弟関係が見えてくる・・・。
 これからも応援しています!毎週更新されることになるととても嬉しいです!

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