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二度瞬く [第二十一話]


『凍える除夜』


 貴崎が思うに、悪ければ、またあのピンヒールが頭上を舞う。
 良くても、そんなことだから彼女に浮気されんのよと罵倒されることは避けられないだろう。

 なにしろ成宮の部屋を出たのが、待ち合わせ時間の五分前であった。
 そうすると、どう多めに見積もっても待ち合わせの時間には間に合わない。うまくいけば数分の遅刻で納まる可能性はあるが、とにかく十一時四十五分を確実にまわってしまう事だけは確かだ。

 大晦日の夜には初雪がちらついていた。
 薄っすらと積もっているところからして、降りだしてからしばらく経っているのか。
 夢の中と同じだ――。
 まるで幼馴染の夢の中にまだいるような、淡い錯覚を覚えた。
 
 幽霊らしく上空をひとっ飛び、といければそれに越したことはないが、あいにく貴崎の透けた体は、はあはあと息を切らし、時折足を止めては膝に手を付き地面を睨んで汗をたらしている。
 成仏するための待ち合わせ場所にスムーズに辿り着くためにも、やはり生きている間の体力作りは不可欠。運動部に入っておくべきだったと後悔する。
 個人競技という点を重視しすぎて、弓道部なんぞに入部したのがいけなかった。

 


 小さな水音が響くトンネル内、蛍光灯の濁った光のもとに姿を現した喪服の女は、想定していたどの反応も垣間見せることなく、アスファルトを叩く硬い高音を反響させて貴崎の前に近づいてきた。

 驚いたのは、ユウコが一人ではなかったこと。

「おそかったわね」
 静かに口を開いたユウコの背後に、スーツ姿の男が一人。
 男は貴崎の方を一度ちらりと振り返っただけで、トンネルの向こうを気にするように、またこちらに背を向けた。
 黒縁のメガネにオールバック、なんとなくだがユウコと同じ、あの世の役人だろうと勝手に想像する。

「ごっ、ごめん、結構走ったんだけどさ。まだ……間に合う?」
 恐る恐る聞くと、ユウコは中腰になり、哀れむような悲しい目をして貴崎を真正面から覗き込み「ええ」と消え入るような声を出した。
 ユウコの顔はいつも以上に血の気がなく、疲れきっていた。

「泣いたのね……? 可哀想に」と独り言のように言い、綺麗な形の爪先が、やっと乾いた貴崎の目尻に触れる。
 やはり声に力がない。
 いつもの舌足らずな言葉遣いや、きつい口調も見受けられない。それどころか、今にも泣き出しそうな辛い表情をしている。

「どう? ちゃんと心の準備は出来た?」
 優しい口調の問いかけに貴崎が答えずにいると、向こうに突っ立っていた男が振り向いた。

「ユウコ。そんな言い方をしては、その子を怖がらせてしまうだけだろ?」
 男の声に、ユウコの表情は強張ったように見えた。

「貴崎君だね? 今回は我々の部署の手違いで、君には多大な迷惑をかけてしまった、本当に申し訳なく思うよ。その上、こんな無駄足をさせてしまって……、本来ならもっと早くに迎えに来れる予定だったんだが――、君の世界の役所同様、こちらの役人も全員が有能とは限らなくてね――」
 男は一度言葉を切り、目を細めてユウコを背後からじろりと見下した。

「私自身、年末の忙しい時間を縫って、君を直接迎えに来たりもしたんだが、どうやらいろいろと伝達ミスがあったようだ――随分無駄足を踏んだよ。まったく、挙句、よりによってこんな日に。上が一番神経を使う、敏感な時だ……」

「ねえ、もういいじゃない。そんな小言は後で私が聞くから」
 ユウコが怖い顔をして立ち上がる。
「ユウコ。君はどうしてそんなに焦っているんだい? 何も一秒二秒を争うような事じゃないだろう。もう少し落ち着いて着実に事を進めようとは――」

「ねえ祐……、ちゃんと私の顔を見て。大切な事だから、今から言う事をしっかり聞いてね……もう時間がないのよ」
 そんな事を言われなくても、既に貴崎はユウコから目が離せなくなっていた。
 明らかに雰囲気がおかしい、いつものユウコでない。
 
 背筋をかがめて真正面から貴崎を見据え、子供を諭すように両手を取って、慎重に言葉を選びながらユウコはゆっくりと話し出す。

「いい? 今から、あなたが一番大切だと思う場所に、行ってほしいの。わかる? あなたが一番――」

「おいユウコ! なんだその回りくどい言い方は――」
 男が眉をひそめてこちらに近づく。

「貴崎君、難しい話じゃない。今から君の高校の正門まで一人で行ってくれないか。
それだけなんだよ。それで無事君の手続きは全て完了する。
本来なら送迎係の者が付き添うべきなんだが、今日は生憎人手が足りなくてね。私が直接送り届けてもいいんだが、車が無い上に、彼女とも少し話をしなければいけないようだ……。急ぐことはない。君のような浮幽霊は優先的に向こうの入り口が開くようになっている」

 男が話す間も、貴崎はユウコの顔から目をそらせずにいた。
 三十路を過ぎた女のこんな表情を初めて見たせいか、それともあの男のせいか、何かとても、良からぬ空気が漂っている。
 何かある――。
 この、何かに押し潰されそうな張り詰めた瞳の向こうに。
 悪運の強さだけを誇る、貴崎の第六感が囁いた。

「あ、あのさ……」
「なに?」
 少し考えて幽霊は小声で囁く。
「俺、そういえばユウコの、子供……探し出すって大口叩いたよな……。ごめん、俺、自分のことで精一杯で、全然役に立てなかった」

「いいのよ、そんなこと」
 久しぶりにユウコが笑った。
 そのはにかむような笑顔は、やはり誰かに似ていると貴崎は思う。

「言ったでしょ? この世は矛盾だらけで、全ては平等に不平等だって……だから善人だって死ぬし、悪人でも―」

「ユウコ、君の話は本筋から脱線しすぎているね。それに聞く者が聞けば、まるでその――重大犯罪を促しているようにも受け取れなくはない。まさか君は――」
「ねえ少しは私のこと信用してくれてもいいじゃない!」
 男は鼻で笑った。

「さあ貴崎君。さっさと高校の正門に行くといい。君の一番大切な場所なんだろう? 私は彼女と大切な話をしなくてはいけない」

 ユウコの手が離れるのを確認して、貴崎は違和感を残したまま背を向けた。
 でもやはり、解せない。
 数歩進み、首だけ振り返る。

「……学校の正門。で、いいん、だよな……?」

 眼鏡の向こうの男の視線が、ユウコの頬に突き刺さる。

「ええ、そうよ」
 女は二度瞬いた。

 突如、頭の上から轟音が響く。
 電車の通過する音。

「祐――っ! 走っ――……ッッ! もう――……が鳴――!」

 脳天から身体を裂くような騒音に、悲鳴のような女の叫び声が重なる。
 
 鞭打たれたように、貴崎は不快なトンネルの中から降雪の中に走って逃げ出した。

 それと同時に、遠くから鐘の音が響く。




 だから、弓道部は運動部じゃねえんだよ――。
 やり場の無い言い訳を何度も繰り返して、貴崎はもつれた足を止めた。
 幽霊なのに息は上がるし眩暈はする。
 
 とてもじゃないが高校の校門まで全力で疾走する程の体力はない。
 ユウコの口調や様子からして、ゆっくりしている暇が無いことだけはわかっているが、もうそんな事は陸上部の幽霊に言ってくれと、貴崎は開き直って半分以上残る道のりを歩き始めた。

 だいたいどうしてあんなにも学校から離れた所を待ち合わせ場所に選んだのか。むしろ校門で直接待ち合わせれば良かったのではないかと、もうろうとした頭に苛立ちが増す。

 そもそも気にかかる事が多すぎて、指示された場所に直行する気にはなれない。
 人に命令されると素直に言う事を聞けないタイプなのだ。
 何か裏があるのかも――。
 ユウコの上司らしいあの男は急がなくてもいいと言うのに、ユウコは走れと言うし、だいたい何なんだ、一番大切に思う場所って――。
 貴崎が一番大切に思う場所が、高校の正門であるはずがない。
 一番大切な場所は――。 
 それにあの時ユウコは間違いなく、二度、瞬いたのだ。

 雪化粧がほどこされた懐かしい生垣の先、赤い光に足を止めた。
 住宅の壁に反射する回転灯。

 パトカー……?

 ポケットに手を突っ込み、首を伸ばしてT字路の先を覗くと、思ったとおりパトカーが警光灯を回し停車している。
 サスペンスドラマでよく見る立ち入り禁止の黄色いテープが道路をふさぐ。
 パトカーが停められている道の突き当りは、貴崎神社の境内を囲む玉垣だ。

 足が自然とT字路に向かったところで、背後から声がした。

「よぉ、有名人」

 はっと振り返ると――誰もいない。

「それ嫌味か?」
 
 足元に違和感を感じて下を向くと、そこには見覚えのある不細工なマルチーズが、貴崎の靴を器用に前足で踏ん付けていた。

 

 
 世界広しといえども、こんなに不細工なマルチーズはそういない。
 なぜなら、こいつはマルチーズでは無いから――いや、それは成宮の夢の中での話か。

 こちらを見上げる飼い犬のつぶれた鼻先眺めていると「お前の顔見とったら、シャンプーしてほしなる」と、それは喋った。

「しゃべ、っ……!?」
 
 やはりマルチーズではなかった。
 犬でもなかった。

「なんや、喋ったらあかんのか」
 仰け反る貴崎の靴に、マルは前足を二本揃えて乗せた。
 
「でも……、あれは、夢じゃ……」
「誰が夢じゃいボケ。お前は夢と現実の区別もつかへんのか、ド阿呆」 
「しゃべっ、た……、マルが……しゃべ……」
「だから、もう俺はマルやない。ゴッドや言うたやろ、何べん言わせるねんアホか」 

 マルはふんと鼻をならして、また小さな尻を振り振り歩き始める。

「マル……!?」
「俺は今散歩中じゃ」
「散歩?」
 見たところ、単独で歩いている迷い犬にしか見えない。
「おお自主的に散歩しとんじゃ。お前んち、今ごった返してるからなぁ、俺の散歩どころやないねん」
「ごった、返……?」

「お前はいつまでも元気に変わらずアホでええのお、羨ましいわ俺。自分の死体が見つかっても、フワフワのん気にしとれるお前がな。ほんま、おかげで楽しみにしてた年越しのテレビ番組見れへんやけ!」

「俺の死体……?」

 なんや知らんのかと、小型犬は足を止めた。

「お前の死体、今晩発見されとったぞ――裏の鳥居に停めてあった車のトランクの中から。安心せえ、買ってきてすぐ冷凍したみたいに新鮮そうやった」

「そんな……。それ、成宮の夢と同じだ……」

「祐。お前はほんま、つくづく阿呆や。ええか? それは夢やない、現実や。夢と現実の区別ぐらいしっかりつけんかい」
「いやでも、あれは確かに成宮の――」  

「だからな、祐。そういうところが浅はかやから、彼女に浮気されんねんぞ?
いいか? 確かに夢やったかもしらん。途中まではな。
お前ちゃんと案内の小冊子読んだかあ? 夢っちゅうのはまだまだ未解明で危険ですと、アホが読んでも分かるように書いてあったやろ。生きてる人間の脳っちゅのはな、想像もつかんような能力をもっとんねや。夢の中からひょっこり現実の世界に繋がってしまうてなことも、絶対有り得へんとはよう断言出来ん」

「……夢と現実が――? ないだろ、そんなの」
 マルは目を細めて笑った。

「なんでや、科学で証明できへんからか? ほな聞くけど、じゃあ俺はなんで喋ってんねん。犬が喋るんは、お前のボケた幼馴染の夢ん中でだけの事と違たんか? 
 夢と現実は繋がらん、犬は人間の言葉を喋らん、確かにそら常識や。でもな、人は死んでも幽霊なんかにはならん、これはもっと常識やぞ?」
 小型犬の頭にわた雪が積もる。

「科学で証明出来へんものは、この世に存在せんと大口叩くんやったらなあ、まず自分のその透けた体を科学で証明してみんかいコラ!」
 犬は巻き舌で怒鳴り、鼻に積もった雪をぺろりとやる。

 貴崎は自分の両手に視線を落とした。
 深々と降り注ぐ無数のこな雪が、目の錯覚のように透き通った白い掌を突き抜け落ちていく。

 確かに存在している。
 夢ではない。
 現実と繋がる夢よりも、喋る犬よりも、不確かなものが、確かにここには存在しているのだ。

 成宮の夢は現実と繋がっていた。

 と言うことは、あの向こうには――死んだ貴崎の身体が。
 パトカーの先に見える玉垣を振りかえった。
 
「行く気か? やめとけやめとけ!」
 マルが嘲笑いながら歩きはじめる。

「今野次馬だらけやぞ。そろそろ報道関係も集まりだしたしなぁ。それから――」
 白く染まったアスファルトの上に次々と捺されていく、梅花のような形の足跡を追いかける。

「それから、今は怖ぁい連中がうろうろしとる。この世の者ではない恐ろしい警備員がなあ――。お前みたいな浮幽霊は見つかったら、えらい目に合うぞ。まあそれも見物やけどなあ、紅白よりは面白そうや」

 貴崎は生唾を飲み下し、一歩下がって辺りを確認した。
「なんで、俺の死体にそんな、警備付いてんの……?」
「アホぬかせ、どこのボケカスがお前の死体なんぞにわざわざ警備つけんねん。警備してんのは、神社や神社や! お前んちの境内の方!」
「境内……? なんで?」

 犬は足を止めて、意味ありげに貴崎を見上げた。
 そして不気味に微笑む。

「なんでや思う?」

「なんでって、そりゃ……境内の中に、警備するようなものがあるから、だろ? お宝、とか……?」
「お前なあ、自分家にお宝あるかもとか、本気で思ってん……? 可哀想な子やなあ。やめてくれや、悲しなるやんけ。お前の家にある一番高価なもんは、去年親戚のじじいからもらったハードディスクレコーダーやんけ。忘れたんか?」 
 言われてみればその通りだ。

「じゃあ……なんでだよ。なんで、俺ん家に、そんな危ない警備がついてんだよ」 

「さあな、それくらい自分で考えろ」
 マルはまた鼻に積もった雪をぺろりと舐めて、早足で歩き出す。

 境内を警備する理由――。
 境内の中にお宝があるわけではない。だいたいお宝があるなら毎日警備をしなくてはいけない。
 なぜ今夜だけ。
 大晦日の夜にだけ、厳重なあの世の警備とやらをしくのか。

 それはやはり、今晩限りの期間限定で、境内の中に、警備を付けなければならない何かが出現すると考えるのが妥当か。
 一晩限定、大晦日の夜にだけ神社の境内に現れる、お宝。
 貴崎は緊迫している我が身の状況を忘れて、考えをめぐらせた。

「そのお宝ってさあ、食べれる?」
「おい、連想ゲームとちゃうねんぞ」
「じゃあそのお宝は、俺や家族が見たことある?」
 マルは無言で歩き続ける。
「それって、大きい?」
「見てすぐわかるもの?」
 いくつか質問を投げかけるが、口が悪い割には頑固な犬だ。

「俺がもらうと嬉しい?」
 上を向いた短い尻尾が、ぴくりと振れた。
「あ、今動揺した? 俺が、もらうと嬉しい物なんだ――ってことは、幽霊が手に入れると、嬉しいお宝……?」

 マルは白い溜息を吐いて足を止めた。 
 そして降り止まない雪を見上げる。

「なあ、祐……。人の世ちゅうんは矛盾だらけで実に不平等や、全てのもんに別け隔てなくな。いくら善人でも、死ぬときゃ死ぬし、どんだけ人殺した悪人でも――生き返るときは、生き返る」

「生き、返る――?」

 貴崎がしゃがんでマルの顔を覗き込むと、マルは前足をそろえてその場に座った。

「せや。犬は喋らん、夢と現実とは繋がらん、人は死んだら生き返らん、そんなことはな、善人やから死なん言うてるのと一緒や。そうあるべきやけど、そうでない時もある。そうでない時の割合が違うだけでな。何億と犬がおったら中には喋る奴がおるし、何万分の一の確立で夢と現実が繋がってしまう事だってある。でもそんなことは、ものすごい速さで回ってる、るつぼの中では大した問題やないねや。犬が一匹喋れたところで地球は止められんやろ?」

「死んだ人間が、生き、返るなんて……」

「この世は矛盾の塊や、残念なことにな。お前が思うほど、ちゃんとは出来てないねん」

 子供の頃には完璧だと思っていた大人の世界が、あまりにも適当で未熟だと薄々気付き始めた時の感覚に似ている。

「人が生き返るって……、それってもしかして、俺でも――?」

「言うたやろ? 確立の問題や。例えるのも面倒臭いほどの、途方も無い確立やけどな」
「うちの境内に現れるお宝と、どう関係あんだよ」
「だから――それも含めて、結局は運や、運! お宝お宝て、お前は海賊王か!? もう俺が言えるんはここまでやからな! あとは自分で考えろ。俺だって死にとうないんじゃ、お前のせいで、ミンチ犬にされてハンバーガーに入れられたらどないしてくれるねん」

「じゃ、なんかさ。ヒントは? ヒント」
「マジでかお前、信じられへん」と犬は軽蔑の眼差しを向ける。

「なんぼ聞かれても一緒や! 人の運っちゅうのは、だいたい一年通して流れが決まっとんねん。頑張ってもあかん時はあかんし、頑張らんでもいける時はいける。運を味方に付けたかったら、今からおみくじでも引きくされ! お前昔から悪運だけは強いねんから、悪あがきしてでも地球の矛盾につけ込んだらんかいボケ」

 あっ――。
 そのとき貴崎はひらめいた。
 大きなひらめきではない。
 霧を掴んだように手ごたえの無い、気のせいとも言える微かな思い過ごし。
 でも、もうそれに賭けるしかない――。

「言うとくけどな、祐。お前が考えてるのは、万が一ほども簡単な事やないぞ? 何も聞かんかったことにして引き返す言うのも、一つの道や。それ忘れんなよ」

 境内から立ちのぼる黒々とした小高い山を睨み上げていた貴崎は、にやりと笑って小型犬を見下ろした。
「おまえ……むっちゃ悪い顔してんな……。あかん、なんか……後悔してきた、俺。またいらん事言い過ぎた気ぃする……本性の優しい部分出てしもた。あかん、俺……俺、そんな自分が、……好きや」

 犬の独り言を無視して貴崎はさっそく走り始めた。
 さっきよりもずっと足が軽やかに動く。

 


 我ながら陸上部並みの走りであった。
 目的地が、目と鼻の先だった事も幸いした。
 
 遠くから響く除夜の鐘。
 今幾つ目だろう。

 明かりの消えた二階の部屋を見上げてから、貴崎は門に手をかけた。

 貴崎の死を知った今、幼馴染が自宅にいる可能性は少ないだろうと覚悟をしていたが、思いがけず玄関には見慣れた大人サイズの靴が並んでいる。
 
 起きているなら、気を失わせて寝てもらう他ない。
 本棚に飾ってあるガラス製の写真立てを使おう。重たいし頑丈そうだから、脳震とうくらいなら一発でなんとかいけるだろう。透けた両手でも、今ならちゃんと掴み上げられる自信がある。 

 二階へ駆け上がり部屋へ入ると、驚いたことに、成宮はまたベッドで眠っていた。
 泣いているのだろうかとも思ったが、膨らんだ掛け布団は微動だにしない。

 手荒いまねをせずに済んだのは嬉しいが、素直には喜べなかった。
 
 愛しいはずの貴崎の死を知って、どうして寝ていられるのか。
 所詮は貴崎への想いなんて、その程度だったということなのか。
 いやそんなはずは――。

 悲しさと悔しさ、動揺が入り混じる。
 下唇を噛んで俯きかけた時、光るものが視界にとまった。
 
 窓から射しこむ街灯に照らされた机の上、水の入ったガラスコップ。
 自分が部屋を出た時には無かったものだと手を伸ばす。

 指先にふれた軽い銀紙状のものを手に取り、貴崎は首を傾げた。
 
 これは、たぶん……薬の包装シート――?
 どうしてこんなものが、こんなに大量に――。
 
 この状況が意味する事を、貴崎はじっと考えた。

 遠くから聞こえる除夜の鐘が、何かの期限をカウントダウンする。

 大晦日の夜、どうしてこの世はこんなにも、二人にだけ冷たいのだろう。
 
 温もりのない凍えた部屋で、貴崎は動かないベッドの上の塊を呆然と見つめ、立ち尽くした。



【後書】もう……ダメだ○o。.(´c_` *)zZZ.....
 ここまで読んで下さった方、ただただ感謝です(人-)謝謝
 明日にでも、新年のご挨拶と、コメレスを<(_ _)>
 ( ゚д゚)ノ寝落ちー

 
  
   
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コメント

八月さんお返事♪

~~~~~((((((ノ゜⊿゜)ノあぁ 八月さん、お返事&承認大変遅れてしまいました(ToT)ゞ
メールでお返事させて頂いてましたが、こちらでのお返事がまだでしたね(;´Д`A ```申しわけありません。

どうぞ今年もよろしくお願いしますね~(ノ^▽^)ノ~~~~『愛』

そうなんです♪ うちの本編は年越し前後でバタバタしております(笑)
ああ、なんでこんなややこしい設定詰め込んじゃったんだと後悔しきりです。もっと自然な流れで上手く書けなかったものかと……まあこのへんはまたメールで(^^;)

あと二話程ですが楽しんでいただければ幸いです♪♪
ヘブン2楽しみにしてます((o(^∇^)o))わくわく
またブログにお邪魔しますね~★☆。.:*:・"゜★βyёヾ(⌒∇⌒)ノβyё★。.:*:・"☆★

お邪魔しています^^*

あけましておめでとうございます♪ 今年もどうぞよろしくお願いしますo(_ _)oペコッ
…って、そんな悠長な展開じゃないですかー!成宮くんが大変なことに!Σ(゚д゚;)
 
実は、もしかしたら貴崎くんが生き返ってくれるかも(希望)と思っていて、それが叶いそう\(^o^)/と喜んだのも束の間、成宮くんが~(´Д⊂グスン
でも出来れば、ふたりともが生きてハッピーエンドを迎えられたらいいな、と勝手に思っております。(またもや希望^^;)

パグのマルの再登場、嬉しかったです。そんな自分が好きヽ(*≧ε≦*)φ
ではまた、続きを楽しみに、お邪魔させて下さいね~♪
 

Unknown様お返事♪♪

Unknown様♪
いつもありがとうございます♪♪

(ΦωΦ)フフフ・・こんな展開になってしまいました。いや、最初からこういう展開になることは決まっていたんですが((´∀`*))
続き気にして頂けて嬉しい限りです(っ´∀`c)キュンキューン
このあといったいどうなってしまうのか……。
Unknown様を納得させられる結末に出来るか不安ですが頑張りますね(●'д')bファイト

†゚*。謹賀新年。*゚†
今年も引き続きご贔屓にして頂けると幸いです♪♪
どうかよろしくお願い致します(*・ω・)*_ _))ペコリン
またお待ちしていますね(。´Д`。)ノシ バィバ~ィ

limeさんお返事♪♪

limeさん♪♪
こちらこそ大変遅れてしまいました(;^ω^)
あけましておめでとうございます゚☆。HAPPY NEW YEAR。☆゚
どうぞ今年もよろしくおねがい致します(*・ω・)*_ _))ペコリン

新年早々長い文章を読ませてしまいまして(´-∀-`;)
割ろうと思えば三話くらいにはなる展開を一気に入れてしまいました……スミマセン。
後ちょっとと言いつつ、実はまだ3~4話あります(ユウコ視点も入れてね)。
なのでもう少しだけお付き合い下さいませ(人'д`o)

limeさんのギリギリラインな小説! むっちゃ楽しみにしています(≧▽≦) ルン♪
個人的にはBL的ギリギリラインも楽しみにしていますヾ(=д= ;)ォィォィ
後ほどブログの方に、改めて新年のご挨拶に伺いますね~ヴァ──ヾ(´ー`)ノ──イ!!

けいったん様お返事♪

けいったん様♪
いつもありがとうございます(*・ω・)*_ _))ペコリン

新年早々長い文章を読ませてしまいまして……(´-∀-`;)
本当に最後まで読んで下さってありがとうございます。
続き、気にして下さいます?? 嬉しい~ルン♪ (≧▽≦) ルン♪
ほんとどうなっちゃうんでしょうか、この二人……。

これからも、少しでもけいったん様の現実逃避のお役に立てますよう♪♪どうか今年もご贔屓に☆
よろしくお願い致します(ωV_vω)ペコ

またお待ちしていますね~βуё★ (o'ω'o)ノ ★ βуё

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No title

ああ、なんてところで終わるんですか!
気になる!!!
貴崎のお宝!
そして、成宮~~~(>_<)

最後の最後でものすごい急展開ですね!
吸い込まれるように読みました。
マルがこんなところで意外な役割を果たすし。
ユウコの瞬きが、鮮やかに効いていました。
う~~ん。さすが!

まさか次で最終話ですか?
待ち遠しいです。

あ、遅くなりましたが、あけましておめでとうございます!
今年もどうぞ、仲良くしてください(*^_^*)
お互い忙しい身ですが、がんばりましょう~~。
で、いろんな楽しいこと語りましょう。
私も、今年はぎりぎりのラインで危ない所にチャレンジしたいと思ってます。
もちろん、サスペンス分野ですが♪

まじっすか!∑(*゚ェ゚*)

予想を 裏切る~~ 裏切る~~展開に これは 妄想不可能ですぅーー(T▽T)
貴崎がぁーー!!成宮がぁーー!! どうなっちゃうのーー!!

面白すぎますぞッ、 続きが 気になって 次の更新が 待てないっ。
此方こそ こんな惹き付けられる作品を 書いて下さって゚+。゚感謝★☆(´∀`人)☆★感激゚。+゚...byebye☆

P.S.喪中にて 新年の挨拶は 控えさせて貰います。今年も よろしく~(*^‿・)

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