スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

二度瞬く [第十九話]

『在り処』

 純白の車体が土煙をあげて走り去った後、貴崎は死神の助言を受けて、寄り道をせずにまっすぐと成宮の家へ向かった。
 家に着いてみると二階の部屋が明るい。
 貴崎は嬉しくなって玄関ドアをするりと通り抜け階段を駆け上がった。
 
 あのまま一之瀬が病院に運ばれていれば、付き添いの成宮も帰りが遅くなるかもしれないと危惧していたのだ。
 とはいっても時間は夜の八時過ぎ、ユウコとの約束の時間まで三時間あまり。
 その上成宮が眠る時間は至って遅い。

 いや今夜ばかりはどんな手を使っても早めに眠りにつき夢を見てもらわなくてはいけないと、意思をかためた貴崎が部屋へ入ってみると、好都合なことに成宮は自室のベッドで行き倒れのようにぐったりと熟睡していた。

 床にはコンビニ弁当の空き箱とビールの空き缶が転がり、今の貴崎同様、年越しを祝う事には縁遠いとみえる。
 ビール缶の口から煙草の灰がこぼれる。
 高校生失格。クラスの女子が知ったら泣くぞと幽霊は溜息をつく。
 
 成宮は食べ終わったゴミも片付けず、電気もテレビもつけたまま、ジャケットも脱がずにベッドにうつ伏せになり寝息をたてていた。
 本来几帳面な性格だから、きっとこんなことは珍しい。
 今日は余程疲れたのだろう。 
 それは他の誰のせいでもない、自分のせいなんだよなとまた溜息をついて、愛しく思える柔らかな幼馴染の前髪に指先を通した。




 「交通安全の御守りと――あと、おみくじ一回」
  
 にゅっとこちらに伸び出る男の手。

 夢に立ち入って早々、千円札を握り締めるこのごつごつとした拳に意表をつかれるのは何回目だろう。
 砂利を踏みしめる無数の靴音と賑やかな笑い声。
 参道に沿って大蛇のようにうねる人の列。
 
 最後になるであろう夢枕のシチュエーションは、初めて成宮の夢に入った時と全く同じ――見飽きた元旦の夢だった。 
 
 いったい何度この夢を見れば気が済むのか。
 あの幼馴染は余程貴崎の袴姿が好きらしい。
 
 催促するように伸びた男の手など相手にせず、貴崎は社務所を勢いよく飛び出した。
 背後から、また兄がおいと呼び止める。
 
 はやる気持ちを抑えながら草履を履いて砂利の上に駆け出ると、ひしめく人込みに前方を阻まれる。
 寒さに痛むのを我慢し足の爪先を立てて、必死に背を伸ばしてみるが、見渡せる範囲にあの姿は無い。
 近くにあった背丈以上もある大きな石灯籠の土台に足をかけて、もう一度広い境内に目を凝らした。

 「あっ……!」
 いた――。

 冬馬と呼ぼうとしたところで――貴崎はぎゅっと口をつぐんだ。
 冷たい拳を握り込む。

 捜し求めていた爽やかな笑顔。
 その微笑みが向けられている先に、またあのオマケがのほほんと立っているのである。
 楽しそうに会話をしながら参道の列に二人して並んでいる。

 ふわふわと揺れる白いファーに包まれた小顔が、また嬉しそうに紅潮し、上目遣いで成宮を見上げては天使のように笑って頷く。
 木の枝のように細い指先が、成宮のジャケットの裾をさりげなくつかむ。
 
 どうして、夢の中にまで一之瀬が――。

 貴崎は静かに砂利の上に降り、その場を離れた。




 一之瀬からの告白が、夢に出るほど衝撃的だったのだろうか。
 それとも、もしかしたら、年明けに初詣に行こうと一之瀬に誘われたのかもしれない。ならばそれを夢に見てしまうことだって十分に有り得る。
 どちらにしても成宮が一之瀬を意識し始めたことに変わりはないと気が付き、貴崎は考えるのをやめた。

 脳味噌から身体が冷え始めるのを感じながら、貴崎は鎮守の森に踏み入った。
 森はいつも通りただ静かに沈黙し、神聖ともいえる重圧で深海の底のように地面を硬く踏み沈めている。
 俗世間の色に馴染めぬ凍え切った喘ぎを、この場所はいつでも無条件で受け入れてくれる。
 まるで闇夜に隠れこんだ影のように、安心できて居心地が良い。

 森深くにある細い山道に踏み入り、淡々と歩みを続けると、いつもの場所に辿り着いた。

 一番好きな場所。
 二人だけの秘密の場所。

 息を切らせながら土に汚れた足袋から目を上げると、煤けた社の向こうに控えめな小域の夜景がぽつんと無造作に置かれている。

 それをしばらく眺めた後、貴崎はいつのまにか夜になっていることに、ようやく気がついた。
 鎮守の森に踏み入る前までは確かに太陽は高かったはずだが、今は湿度を多く含んだ冷気の独特の香りが鼻をつき、夜特有の靄が森の奥からじわじわと涌き始めてる。
 
 貴崎は石階段の最上段に力なく腰を落とした。
 
 これから先、ずっとそうなのかもしれないと思い始める。
 誰もいない教室で抱き合うのも、成宮の部屋のでイチャつくのも、保健室のベッドで絡まりあうのも、その小さな肉体は貴崎ではなく一之瀬に少しずつ置換されていき、いつしか成宮の夢はあの愛くるしい笑顔に占領され、満たされる。

 夢の中でも、現実でも――。

 ここはもう、二人の秘密の場所では無くなってしまうのかもしれない。
 成宮の隣に座るのは、貴崎よりもずっと可愛らしい天使のような少年――。

 急に胸が苦しくなって下唇ぎゅっと噛み締めた時、背後から話し声がした。




 成宮かもしれないと一瞬気持ちが昂ったが、声の主は知らない男だった。

「いえね――だから別にいたずらだって決め付けてる訳ではないですよ? ただそれらしいものはどこにも無いって……ええ、境内の中はくまなく――。怪しい人物っていっても、もうすぐこっちは年明けですからね。初詣の参拝者が結構いますよ。それにこの神社……安藤さんから聞いてたよりずっと広いような――」

 スーツ姿の男は携帯を耳にあてて不機嫌な様子でしゃべりながら、すたすたと社の前を通り過ぎた。
 貴崎が通ったのと同じ山道を登って来たらしく、電灯に照らされた革靴が泥だらけだ。 
 
 誰だこいつ、成宮の夢に出てくるからには成宮と何か接点がある人物なのだろうか。
 社の裏にしゃがみ込んで身を隠した貴崎は、石階段を降りていく男の後を静かに追った。

「やっぱりいたずらの線が濃いですかねえ――。安藤さん、心当たりは無いんですか? あるでしょう? いっぱい。携帯にいたずら電話をかけられるような、恨みを買う心当たりが……。いえ、別に深い意味はありませんよ? ただ、ほら例えば……来月からの出張の視察と偽って、新婚旅行を満喫するために、大切な部下の年末年始の休みを出勤に書き換えた、とかね?」

 男は軽やかな足取りで石段を下っていく。

「いえ、俺のことじゃありません。例えばです、例えば。――俺は安藤さんのこと心から尊敬してますよ ――え? あ、まあ、そうっすねえ。隼さんのことはもっと大好きっす……何かあればいつでも自宅にて保護しますよ、任せて下さい! その辺は――」

 男は夜霧に響き渡るような下品な笑い声を発した。
 貴崎は不審に思いながら、ゆっくりと階段をおりる。

 男はくだらない世間話や職場の愚痴を言いながら鳥居をくぐり道路に踏み出すと、何かに心奪われたかのように足と口の動きをぴたりと止めた。
 
「うわ、やべ……」と一点を見つめ、男は小さく呟く。
 はあと白い息を吐いた後、首を傾げながらポケットに手をつっこみ、その光る大きなものに近づいた。
 貴崎は数メートル離れた鳥居の内側で、木肌に頬を寄せてその様子をうかがう。

 男が半身をかがめて覗き込んでいるのは、路上駐車された一台の車だった。
 
 この辺り、夜になると路上駐車はよくあることだが、その車は駐車禁止と書かれた看板の前に堂々と駐車されている。
 車体の横幅は広く、車高は低い。
 色は街頭の明かりを鋭く乱反射する純白色で、暗い中でもよく目立っている。 
 
 遠目からでは見えづらいが、色といい、平べったい形といい、素人目にはユウコの車――もしくは自らの殺害現場となった犯人の男の車にそっくりだと、貴崎は目を凝らす。

「はあ……まあ、その――、垂れ込みのあった車によく似た車があったってか――。いや、でも色が白いってだけで、FDとは……」 

 FDという型式なら、確かユウコの車はFDだったような――、それに運転席の上に吊るされているのはなんだか御守りの束のようにも見えるし、リアガラスにちらつく助手席のシートの色は明らかにグレーやブラックではない。
 身構える貴崎の数メートル先で、男は車の後方に回りこんだ。

 男がトランク部分に手をかけると、車は鈍い音をたてて簡単に大きな口をぱくりと開ける。
 トランク内には一面青いシートが敷き詰められていた。
 男が手際よくそれをめくると、狭い空間に窮屈そうに詰め込まれた大きなスーツケースが姿を見せる。
 旅行用のスーツケースというよりは、楽器や機材が収納されているような角張ったジュラルミンケースといった雰囲気で、ずいぶんと重たそうでもある。

 カチャリ。

 男が鍵の部分に触れると、待ちかねていたかのようにケースの蓋は小さな金属音をたてて浮き上がった。
 まるで宝箱のようだと思ったのは、持ち上がった蓋の隙間から、濃い白煙が溢れるように流れ出したから。

 重たそうな蓋を男がゆっくりと開けるが、貴崎の位置からでは男の背中が邪魔で全貌は見通せない。
 
 それでも僅かな隙間から宝箱の中を覗くと、中には宝石ともいえる乳白の光を放つ分厚いビードロの塊のようなものが入っていた。
 貴崎は我を忘れて、吸い付けられるように一歩前に踏み出す。

 車のボディよりも、ケースが吐き出した白煙よりもずっと白くて、透通るように美しい。
 表面は氷のようにつるつるとしているようにも見えるし、柔らかそうでもある。
 
 そして、それは細く端整なつくりの腕と足をもち、抱えた膝に綺麗な指先をそっとそえて、眠るように瞳を閉じていた。



【後書】どんどん皆さんの期待とは別の方向へ進んでいるのではなかろうか……この話(;´Д`A ```
 こんなに短いのは久しぶりなのかな……。
 当初の予定よか、ぶつ切りでお送りしておりますので、あと四回か五回くらいあります。ちょうど年をまたぐと同時に小説内でも年をまたぐ内容でお送りする予定です。あくまで予定ですけどね(^^;)

 今日は本来ならば出勤なのですが、なんとうちのチビザウルスが今大流行のノロウイルスに……ヽ(  ̄д ̄;)ノ エー!?
 さすが我が息子、流行でもなんでも乗れるもんには全部乗っとけっつうその心意気が、お母さんは大好きだ!(゜Д゜) ハア??
 まあ、何はともあれ昼寝中の二歳児の隣で、BL小説を書いているという(その上今回内容は……)不良主婦でございます。
 せめてもの罪滅ぼしに美味しいお夕飯でもつくるとしますか♪♪ ノロザウルスはお粥だけどねヽ(´▽`)/へへっ
 今晩にでも改めてコメレス記事(前々回と前回分)上げさせていただきます♪♪+。:.゚ヽ(*´∀)ノ゚.:。+゚ァリガトゥ
 次回の題名はずばり『Last Dream』です
 ではでは<(_ _)>
関連記事
スポンサーサイト

テーマ : 自作BL連載小説 - ジャンル : 小説・文学

コメント

limeさんコメレス♪♪

limeしゅわ~ん。゚(゚´(00)`゚)゚。(←毎回キモくてスミマセン)
毎回お返事の場所が違って申しわけない……(*- -)(*_ _)

そうそう♪ 安藤さん、一応あの安藤さん……のはず! 過去ページ見て確認したから間違いない(どんだけ自分の作品を忘れているんだ、私)
早い話が、新たなキャラを出す余裕が無かったと(笑)

limeさんにそう言って頂けると、ほんと恐縮です(;´Д`A ```
先が見えないというか、もう作者自身が手探りでしてΣ(- -ノ)ノ エェ!?
ちゃんと最後に納まるのか不安で不安で……もうどうしたらいいですか、limeさん(´‐` ○)\(○`ε´○) コラ!コラ!

うちのチビは一応症状は軽めらしく、今は熱も下がって隣で半目開いて寝ています(^^;)
私も毎年のことながら、風邪に喉やられてしまいました……なかなか治らないんですよね、喉って。゚(゚*ω⊂ グスン
limeさんもお風邪を!!??
無理しちゃだめですよ~、と言いながらラビちゃんの続きも楽しみにしています(なんて奴だ)
この間一生懸命『人工無能』検索しました(笑)どっちが無能なんだかってくらい、未知の世界でございました~☆彡
ほんと、内容・文章共に勉強になります<(_ _)>
またお邪魔させて下さいね~!!
ありがとうございました+。:.゚ヽ(*´∀)ノ゚.:。+゚ァリガトゥ

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

カレンダー
08 | 2018/09 | 10
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -
訪れ人様
覗き人様
現在の閲覧者数:
小説
最新中毒記事
最新コメント
りんく (☆→R指定なし ★→R指定あり)
らんきんぐ↓
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
めーるふぉーむ




検索フォーム
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。