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二度瞬く [第十七話]


『二車択一』


「一之瀬! たのむッッ!! 身体、貸してくれっ!」

 頭で考えるよりも、貴崎の透けた腕は早かった。
 びくびくと震える小さな両肩を真正面からがっしりと捕まえる。

「うっ、うわぁっ……!」
 
 幽霊に肩をつかまれたのが相当怖かったのか、一之瀬は悲鳴を上げて仰け反り、先ほど貴崎が躓いた大きなゴミ箱に背中から派手に倒れ込んだ。

「たのむっ! このままじゃ冬馬がヤバイんだ!」
 
 貴崎がしゃがみこみ、尚も覆いかぶさるようにして何度もきゃしゃな身体を揺さぶると、恐怖に引きつった一之瀬は目の前の幽霊を直視するのを恐れた様子で目線を反らせ、悲鳴のような声をあげた。

「……き、貴崎くんっ……! い、いいかげんにしなよ! 君、もう死んでるんだろッ!? 自分が死んだからって成宮君に取り憑くなんて迷惑だよ!」
 腰を抜かしたまま、少年は裏返った声音で口調だけを強める。

「勝手過ぎるよっ、貴崎君!!」
 
 わかってるよ、そんなこと――。
 ぎゅっと背中を丸めて幽霊に断固抗議する少年を見下ろし、貴崎は決意した。

「借りるからな! 身体!」
 
 そんなこと出来るのだろうかと、自分でも言いながら思う。
 でも不可能ならば、馬鹿丁寧に「厳しい罰則が科される違反例:生物の身体に乗り移るなどの危険行為」などと、あの世の案内冊子には書くまい。

 貴崎は思いつくまま行動を起こし、とにかく一之瀬の身体に乗り移った。
 乗り移ったというよりは奪い取ったといった方が正確で、ただたんに腰を抜かして動けない一之瀬に対し、思い切り体当たりをした。

 うぎゃっっと悲しい声が耳の奥で響き、一旦視界は暗転したが、すぐさま目を開け辺りを確認すると、さっきまで一之瀬が腰を抜かしていた場所に貴崎は座り込んでいる。
 成功かと思いきや、四肢が硬直して身動きが取れないことに気がついた。
 焦って腕に力を入れると細い手首は僅かに持ち上がる。
 強い磁石に引き付けられるように地面に吸いつく身体をなんとか動かし、首から下を確認してみると、透けた自分の身体は消え、代わりにファー付きの白いコートを羽織る小柄な肉体がそなわっている。 

 幽霊による生身人体の乗っ取り術は、思ったよりもずっと上手くいった。
 それも高校生がとっさに思いついた、ありがちな方法で。

 一之瀬の身体を奪い取った貴崎は、重たい下半身を持ち上げる。
 この肉体は細くて小さいくせに、ボーリング玉を幾つも体内に隠しているように重くて、重心が取りづらい。
 そして一歩踏み出すごとに脳ミソが頭の中で横滑りするかのごとく焦点が大きくずれ、とてもじゃないが真っ直ぐ歩けない。
 その上体内は灼熱地獄。
 汗が噴出し、息が上がる。

 バランスを崩して何度もこけそうになりながら、やっとの思いで立ち上がり、壁に手を付きながら路地裏を出て成宮の後を追い、ようやく捜し求めていた背中を見つけた時、幸いにも成宮は、まだあの男と接触してはいなかった。

「と、とぉま……っ!」
 弱く声を発すると自分の声ではない。
 一之瀬の声だ。
 それでも、か細い声はちゃんと成宮の後姿まで届いた。

「一之瀬っ……! ごめん、さっきは……。でも、あの男……何か知ってるはずなんだ、貴崎のこと」
 きょろきょろと辺りを見回しながら駆け寄って来た成宮は、小さな肩にそっと手をかけた。
 
 幾重にも重なった布地の上からなのに、大きな掌の温もりを感じる。
 夢の中ではない、現実世界。
 久しぶりに触れられたその感触は何とも生々しく、貴崎はどうしても幼馴染の手の行き先を意識してしまう。
 今なら思う存分成宮に触れてもらえるし、触れられる。
 そんないけない妄想が自然と脳裏をよぎる。

 と、その手が突然動きを止めた。

 「あ……っ」

 標的を射抜く、成宮の眼差し。
 ゆっくりと小さな肩から離れていこうとする幼馴染の手を、貴崎はぎゅっとつかむ。

「冬馬……、行くな」
 消え入る小さな声を絞り出す。

「今、見えたんだッ! 向こうにいる! 絶対あいつに間違いないっ!」

「いいよ、あんな奴……放っとけよ」
「一之瀬っ! 離せ!」

 貴崎は何度も首を大きく横に振り、振り解こうと暴れる手を必死に両手で握り締めた。
 同時にひどい頭痛が始まり、視界が揺れる。
 急激に増していく息苦しさ。
 口を大きく開けて深呼吸しようとするが、今までどうやって息をしていたのかが分からなくなった。
 苦しさのあまり涙が溢れ出す。

「とぉま……行っちゃ、駄目だ……」
 成宮の手をつかんだまま駄々をこねる子供のように地面にうずくまると、成宮は諦めきれないように通りの向こうに一度眼をやってから、しゃがみ込んで一之瀬の顔――一之瀬の身体を借りた貴崎の顔を覗き込んだ。

「一之瀬……? どうしたの、具合悪い?」

 ただ事ではない少年の異変に、人波も滞留し始めた。
「救急車呼ぼうか?」と、買い物帰りの主婦が携帯を手に立ち止まる。

 何度呼吸を繰り返しても一向に楽にならない。
 むしろ息苦しさが増している。
 一回り小さな容器に無理やり押し込められている嫌な閉塞感があって、窮屈でならないのに、背中を優しく撫でる指先の感触には神経がいって、意識が掻き乱される。

 涙と汗で水没した視界を手の甲でぬぐって顔を上げると、揺れる通りの向こう、人波の中に、流れに呑まれず立ち止まり、こちらを見つめている黒い影があった。
 
 あの男だ――。
 
 その影がこちらに近づいてくるような恐怖に襲われた貴崎は、成宮の手を強く握り締めたまま、残った僅かな体力を振り絞って立ち上がり、前のめりになって走り始めた。




 とりあえず知った道ばかりを逃げるようにして走っていたら、結局辿り着いたのは見慣れた鳥居の前だった。
 貴崎と成宮が毎朝待ち合わせをしていた場所。
 鳥居の奥に立ち上る急勾配な石階段をちらりと見上げてから、貴崎は一番下の石段に腰を下ろした。

 背中のすぐ後ろから二三段上は鳥居の中、つまり境内で、言わずと知れた貴崎神社の敷地内になる。
 他人の身体に入っていても、この世の者ならぬ貴崎を察知しているのか、鳥居からは近づきがたい霊気と熱風が漂っていて、これ以上は近寄れないと貴崎は本能的に感じる。
 猛火を背にして座っているかのように背中がじりじりと炙られ、焦げるように熱い。

「一之瀬……大丈夫? すごい汗だけど」
 こちらを覗きこむ心配そうな表情。

 ただでさえ息をしているのがやっとなのに、こんな間近から見つめられると余計に胸の拍動が高鳴る。
 どうしても貴崎の目線を吸いつける、白く柔らかな息を吐き出す唇や、浅く軽やかな息遣い。ダウンジャケットのナイロン地が擦れる微かな音のくすぐったさは、夢の中では無かった感覚だと、冷静に分析しては、隣に腰を下ろす成宮の姿をまじまじと横目で見つめてしまう。
 握ったままの手を成宮はさりげなく何度も外そうとするが、殆ど感覚が無いまま冷たく固まってしまった小さな拳は、生気に満ちた大きな手を握り締めたまま、開きそうも無い。

「もうちょっと行ったら病院があるから、そこまで送っていくよ。俺はもう一回駅前に戻って、あの男を捜すから――」

「なんでだよっ!? 行くなって言っただろ! せっかくここまで逃げてきたのに」
「一之瀬……?」
 声を荒げると、成宮が不審に眉をひそめた。

「あんな奴放っとけよ……。どうして分かんないんだよっ! 冬馬のバカっ!! お前も殺されるかもしれないんだぞ!?」
「一之瀬? どうしたんだよ急に……。なんか、口調変わったけど……もしかして、さっき頭打ったりした?」
 前髪に迫って来る成宮の手を払いのける。

「頭おかしいのはお前だろ、冬馬! いつまでも俺なんかの事にこだわってたら、お前まで俺みたいに……。もう、どうせ帰って来ないんだよ、俺なんてっ!!」

「もしかして一之瀬……貴崎のこと、何か知ってるのか……? だからそんな、変なこと――」

「だから貴崎貴崎って……もう俺は――貴崎祐は、とっくに死んでんだよ! どっかの山の暗い森の中に死体が転がってんのっ!」

 途端に、かたくなに繋がっていたはずの幼馴染の手が乱暴に振り払われた。

 鋭い視線が横から貴崎を貫く。
 大きな瞳の褐色が深みを増す。
 成宮冬馬の――本気で怒った顔だ。
 貴崎は叱られた子供のように、はっと下を向いて身を縮めた。

 いつも優しい成宮は、怒ると実は怖い。
 そう知ったのはいくつの時だったか、ずいぶん前の事だからこの顔を見るまで忘れていた。
 小学生の頃、知らない男に声をかけられついて行きそうになった貴崎を、成宮は本気で叱った。
 成宮の怒った顔は、怒られる貴崎よりもずっと辛くて悲しそうな表情に見える。
 だからこの顔を見た時は、貴崎は泣くことに決めていた。

「一之瀬……冗談でも、そんなこと言うな。貴崎は絶対死んでなんかいない……何か事件に巻き込まれたりは、してるかもしれないけど……きっと何処かで助けを待ってる……。今も、どこかで泣いてるかもしれない……」
 静かに呟き、苦しそうに目を伏せた。

「どうしてだよ……なんで俺なんか……貴崎なんかがいいんだよ……。性格も最悪だし、お前の気持ち知らないで、ひどい事言ったり、冷たい態度とったり……あんな奴忘れちゃえばいいのに。
一之瀬と付き合えばいいんだ、こいつきっと本気だし……お前のこと」

 鼻を吸い上げ涙まじりに言うと、成宮は少し困惑した表情を見せた。
 
「……ごめん、一之瀬の気持ちは嬉しいけど……」
 
 あまり見せない幼馴染の弱々しい表情。
 涙が止まらないまま、その貴重な顔を横目に焼き付ける。
 
「バカだよ、お前……」

 貴崎が言うと、成宮は一瞬驚き、それからまた、いつものように優しく微笑んだ。

「……そうだな。きっと貴崎がここにいても、同じこと言う気がする……」
 
 そう言ってゆっくりと立ち上がり、階段を二三段上がる。

「一之瀬の家って、ここから学校挟んで真逆だから、結構遠いよね? 今からタクシー呼んで、とりあえず家まで送るよ」
 成宮は気を取り直したように明るく言って、泣き疲れてうつむく貴崎に背を向け、携帯を取り出した。
 



 そこへ地響きのような排気音が鳴り響く。
 
 遠くから聞こえると思っていたら、気がつけばもう、すぐ傍でアスファルトを震わせている。
 聞きなれた重低音。
 見慣れた低い車高、純白の曲線。

 その車両を有する者を、貴崎は二人知っている。
 
 瞬きを忘れて目を見開く。
 潤っていた眼球が急速に干上がる。

 どっちだ――。

 どちらにしても、不吉なことに変わりは無い。






【後書】スミマセン更新遅れました(*_ _)人ゴメンナサイ
 (w_-; ウゥ・・もう駄目……全然文章かけまへん(=xェx=) モ、モウダメ
 作文みたいになってしまった( ̄ー ̄?).....??アレ??

 とりあえず今日は寝て、明日の夜にコメレスさせて下さいませ<(_ _)>
  ○Oo。.(T¬T)/~~~オヤスミナサイ
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コメント

Re: No title

limeすわぁ~ん(。´Д⊂) ウワァァァン!
いつもお優しいお言葉ありがとうございます(ToT)
前回分のコメレス欄にもちょっとだけお返事書かせて頂きました♪
本当はブログにコメントさせて頂きたいのですが、本当にスミマセン。
また改めてブログのお邪魔しますね~と言いつつ、携帯から実はこそこそ行っています……(笑)
寸暇を惜しんで人のブログを覗き見しているという……(`□´)コラッ!

Re: 面白いよー!

(。´Д⊂) ウワァァァン! いつもありがとうございますm(。_。;))m
別枠のコメレス欄で改めてお返事させていただいてます♪

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

面白いよー!

貴崎の 冬馬を心配する気持ちが 読んでる此方にも すっごく 伝わって 面白い!
ハラハラするし、ドキドキするーー!
男に 関わらせたくない為に 借りた一之瀬の体ですが、 こんなに 苦しいのは やはり 無理が あるのでしょうね。
でも 一之瀬の体で 説き伏せ様としても 冬馬は 納得はしないでしょ!!
あぁ どうしたら いいのでしょうね。何か いい方法は 無いの!?

気になる白い車の登場、どっちなのーー(T▽T:)ゞbyebye☆

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