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二度瞬く [第十三話]

『change a bed』




「……いいの?」

 そう聞かれても、何が、いいのか――質問の意味は、この上なく曖昧で、秘されているから余計甘い。
 
 自分から交わした口付けのはずが、気がつけば思いのほか熱をもって、貴崎の身体は苦しいくらいに締め付けられていた。
 熱も冷めやらぬうちに社の中へ引っ張り込まれ、赤いベッドの上に押し倒された。
 上から覆いかぶさるように貴崎を見据え、体重をかけて動きを封じておきながら、幼馴染はこんなにも自由度の高い選択肢を唐突に投げかける。

「さっきはあんなに嫌そうにしてたのに……。触るなって、言われた」
 鼻先数センチの距離で無表情が静かに言う。
 両手首を押さえ付ける成宮の手に、ぐっと力がこもるのを感じた。

「あ、あれは……、あの時は、そう思ったけど……、でも、今は……本当に……」
 語尾を濁すと、真意を探るように整った顔が貴崎を覗きこむ。
 気まずくなって視線をそらすと、安っぽく光るシャンデリアが視界にはいった。
 
 だいたい此処は、何なのか。
 成宮の夢の中。
 その夢の中の、貴崎の実家の裏山の小さな祠の、そのまた中にある見知らぬ部屋なのだが、その室内には異様な空気が漂っている。
 赤いシーツのキングベッドに、それを見つめる大きな大画面。ガラスのローテーブルに二人掛けのソファー。ベッドの上を覆う天蓋の裏側は、案外粗末な造りになっている。
 格子戸越しに目にしてしまった淫靡な光景のせいか、とにかくここは、好きな場所ではない。 

 貴崎の思いを察したのか、成宮は少し身体を起こし、部屋をぐるりと見回した。
「そうだな……確かにここは、祐には、汚れすぎて……。でも……、じゃあ……」
 独り言をつぶやきながら成宮がゆっくりと瞬きをした瞬間、驚いたことに天蓋が、消えた。
 消えた天蓋の向こう側は、天井ではなく、暗闇だ。
 もう一度成宮が瞬くと、大きなテレビモニターとソファーが消え、その次はテーブルと天井全体が消えて無くなった。
 僅かな時間、半円をえがく長いまつ毛に心奪われそうになった一瞬に、部屋の造りの半分以上が消滅してしまった。
 宇宙空間にぷかりと浮遊しているように、壁や天井が消えた後には、吸い込まれそうな漆黒が浮き彫りになる。
 成宮の中に渦巻く、闇。
 丁寧に装飾され、幾重にも塗り重ねて隠されていた部分の実体を目にしてしまったかのようで、貴崎は怖くなった。

 次は、間違いなくベッドが消える。
 はっと、自らが横たわる赤いシーツを握り締め、背中を丸めて、目を瞑った。
 


 そのまま二度呼吸をしたが、特に変わった感触はない。
 薄目を開けると、先ほどまでとは違う蛍光灯の光に照らされている。
 こちらを覗きこむ幼馴染の背後の天井は、さっきよりも低い。
 部屋の広さもずっと狭い。
 ここは――成宮の部屋だ。

「ここなら……落ち着く?」
 
 落ち着くも何も、夢に入る前までずっと居た場所だ。
 事実、今も成宮はこの場所で眠っているはずなのである。

「祐?」
 目の前の顔が不安気な表情に変わるのを見て、貴崎は密かに喜んだ。やはり無表情よりもずっといい。
 貴崎の緩んだ顔を見て、成宮も和らいだ面持ちを見せる。 
 
 次の瞬間、また苦しいくらいに抱きしめられる。
 名を呼ばれ、激しく唇を求められる。
 
 しばらく身をまかせて、ぎこちないながらも相手の要求にこたえていたのだが、上衣の上を這っていた性急な手付きが、襟の隙間にするりと滑りこんだのを感じると、どうにも耐え切れない羞恥が涌き始めた。
 
「ん――あ、あのっ……成宮?」
 唇がほどけたところで、思わず声を発する。
 成宮は優しく首を傾けた。

「あ……あ、の……、何ていうか……」
「なに?」
「その……、あ、あの……あれ、でん、き……」
「電気?」
「……ん。電気」
「……もしかして、消すの?」
 貴崎が決死の思いで小さくうなずくと、成宮は眉をひそめて心底嫌そうな顔をした。
 どうやら消灯には反対らしい。

 どうしても明るいのは嫌だと拗ねたように口を尖らすと、敵もさることながら、少し怒ったように、どうして、と分かりきった質問をしてよこす。

「ど、どうしてって……自分で考えろよ、それくらい。分かんだろ」 
「だって、電気消したら……暗くなっちゃうよ?」
 当然だ。こちらは暗くしてくれと言っているのだ。 
 とにかく明るいままでは、恥ずかしくていけない。

「知ってるよ。俺は誰かさんと違って、こういう事初めてだから、明るいのは嫌だつってんの!」

 ぷいと横を向いて嫌味を吐き捨てると「あ、拗ねた。可愛い」と成宮が言う。
 自分も性格が良い方ではないが、こいつも相当なものだと貴崎は幼馴染を睨みかえした。

「祐は昔から、そういうとこ頑固だよね……。暗くしたら……っかくの袴姿が……、……の時の顔だってさ、見れなくなっちゃうし……」
 一人ぶつくさと文句をたれながら、成宮は渋々身体を起こして、机の上のリモコンに手を伸ばす。

 最近の蛍光灯のスイッチは、貴崎の実家とは違い、紐を引っ張るタイプではないらしい。
 いくらかほっとしつつ、成宮がリモコンをいじるのを物珍しく眺めていたら、電気が消えた。
 いや、まだ少し明るい。   
 
「おい。豆電球も消せよな」
 いつもは、出来過ぎ君のような優等生を演じておきながら、実はとても幼い性格をしていて、往生際まで悪い。夢に忍び込むようになってから、嫌というほど成宮の性格を認識した。

「祐……、俺のこと、好き……?」
 幼馴染は本当に手強い。
 薄暗い豆電球の光の中で、子供のような駆け引きを始める。
 しばらく答えずにいると、もう一度同じ質問を繰り返す。
 答えるまで豆電球を消すつもりはないらしい。

 顔面を熱くして、貴崎が小さく頷くと、成宮が真正面で首をひねる。
「暗いから見えないよ? ちゃんと口で言ってくれなきゃ」
 
「……す、好き……。成宮の、こと、好き……」

 ふっと笑ったように吐息を漏らし、成宮が顔を寄せ、貴崎の耳朶に唇でふれる。
「欲しい? 俺のこと」
 熱すぎる息と一緒に言葉を吹き込まれると、脳にまで直接届く気がして、後頭部がじんと痺れてしまう。
「ねえ、祐。どうして欲しいの? 俺にどんなこと、して欲しい?」
 問われるままに、とにかく成宮が好きだと、欲しいと繰り返し、その度に降ってくる口付けに唇を奪われて、また思考が遠退いていく。
 本当はどうしようもなく恥ずかしくて、気を緩めると涙が溢れそうになる。
 もしもこれが中学生の時だったなら、確実に声を上げて泣いているんだからなと、意味の無い小さな反感を覚えるのだが、それはすぐに熱い唇のせいで消えてしまう。

「へえ、そんなに俺が欲しいんだ……。祐の体は欲張りなんだね」
 薄闇の中で悪戯っぽく笑う顔は、怖いほどに色気があって魅力的だ。

「いいのかなぁ、そんな事言って。祐の体めちゃくちゃにしちゃうかもしれないよ? 俺が犯罪者なら間違いなく殺してる、祐は可愛すぎるから……」

 どこか含みのある成宮の囁き声に、貴崎はわずかに息を凍らせた。
 
 電気が完全に消えて、視界が暗転する。

 またぎゅっと抱きしめられて、キスをされる。
 高温の舌で緩やかに口内をこじ開けられ、深く唇を繋げると、徐々に意識が溶けはじめる。

 無明の闇、布が擦れあう音と、口の中に響く、粘度のある小さな水音。

 貴崎の存在を確かめるように布越しに触れていた長い指が、肌の感触を求めて襟の重なりを割り開き、素肌に吸い付きはじめる。
 腰紐を探し当てたもう片方の成宮の手が、結び目を手探りで解くと、緩んだ襟元がさらに広げられる。
 あらわになった肩を、濡れた唇がなぞり、そのまま鎖骨へと滑っていく。
 胸元に熱い息を感じる。
 首を柔らかい髪の毛がくすぐる。
 時々、卑怯なくらい生々しい音をたてて、肌の薄い部分を熱い粘膜が刺激する。
 
 視覚が利かないせいか、他の感覚器はその分過敏になっているのだろう。
 ぼんやりと意識は薄らいでいるはずなのに、幼馴染の息づかい一つ、逃すことなく身体全体で感じ取っている。

 ばさり。
 音と共に足元に風が入り込み、袴が大きくめくり上げられたのだと気付いた。
 内腿を這い上がる指先の感触に、急に背筋が疼き始める。
 自らの身体の変化に恐怖し、指の甲に歯を立てていると、成宮の動きが止まった。
 
「祐……震えてるの? 俺のこと、怖い……?」

「や、優しく、してくれるって……この間、約束、した……」

 途切れ途切れに弱い声を搾り出す。
 初めて夢枕に立ったあの日、幼馴染が夢の終わりに口にした、寝言のような言葉。
 まさかそれを約束だといって、自分の口から持ち出す日が来ようとは、本当にどうかしている。
 
「そうだね……、わかってる。優しくするよ。祐のこと、絶対傷つけたりしない……」
 
 暗がりの中、声音と息遣いで、成宮が嬉しそうに微笑んでいるのが分かる。
 それは内側から溢れ出るような、とても素敵な笑顔なのだろうと想像する。
 きっと何度もその笑顔を見つめるチャンスはあったのだろうが、そのことにずっと気付かずにいた。
 クラスメイトが誰も知らない、貴崎だけが知り得る、作り物ではない成宮の笑顔。

「祐……愛してるよ」
 
 瞳をとじて、その静かな声音と幼馴染の香りを、体内いっぱいに吸い込んだ。
 いったいどんな顔して、そんな言葉を吐くのか。

 やはり電気を消したのは、少し失敗だったかと、もうろうとする頭の片隅でふと思ってみたりする。

 


【後書】
 w( ̄Д ̄;)うぎゃは――!!
 大変更新が遅れてしまいました。新ブログ立ち上げの方に手をかけすぎてました……という程進んでないんだな、これが。
 待って下さってた方々。そして前回もとても嬉しいコメを下さった方々。お待たせしてスミマセン<(_ _)>
 本当はここで切るつもりでは無かったのですが、また長くなって、その分更新が遅れるのも駄目だろうと、ちょうど切れそうだったので切ってみました。何か全然内容無くて、ごめんなさいね人( ̄ω ̄;) スマヌ

 そうこうしているうちに、もうスクールに行く時間です!!
 帰ってきてから、ゆっくり前回のコメレスさせて下さい。とは言っても、今日はそのまま元同僚との女子会に参戦しますので、夜中へべれけになって帰ってきて、ニヤつきながらコメレス書いてると思います。やっぱりこの瞬間が、一番嬉しいんだな♪♪

 ではでは♪
 今夜は飲んで食べるぞ――(゜ロ゜)/(゜ロ゜)/(゜ロ゜)/(゜ロ゜)/(゜ロ゜)/オォー
 旦那よ。頑張って息子を寝かしつけてくれたまえ(▼о▼メ)ゞラジャ
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テーマ : 自作BL連載小説 - ジャンル : 小説・文学

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Re: 二日酔い~?

 けいったん様~♪ いつもありがとうございます♪♪
 今回は拍手コメじゃなくて、コメント欄使って下さったんだな~と何気に思っていたら、な、なんと!! コメレス記事が下書きのままでアップになっていなかった……てっきりアップしたものと思っておりました_| ̄|○ 申し訳ありません(ノд-。)シュン

 そうなんです(;^ω^) 近々新ブログ(本当はホームページにしたかった……)を立ち上げる予定です……と言っても、しばらくは本当に子育て日記とか転職活動日記とかを地味に更新していく予定なんですが、まあそのうちBL以外の小説や、イラストなんかも載せていく予定です。 メインイラストがほぼ描きあがったので、そのうちブログ開設のお知らせをこちらにアップさせて頂くと思います♪♪

二日酔い~?

今 成宮は 夢の中で 人生最大の至福の時を 味わっているんでしょうね! 現実は あまりにも 悲しいから。 貴崎の死を まだ知らない 成宮に 夢の世界だけでも 幸せって 感じて欲しいですね。 P.S. 16様は 新ブログを 立ち上げされるのですか? どんなのかなぁ、興味津々♪ (*・v・*)...昨日の お酒は まだ 残ってる?...byebye☆

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