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二度瞬く [第十話]

【注】ど頭からBL要素の性描写が入ります。
   「性描写? それが何か?」と言える腐女子&腐男子以外はご遠慮下さい。

【注2】 今回は成宮視点です。
 『彼の夢』


「んっ……ぁっ、ああ――ッ!」

 見慣れた赤いシーツに顔をうずめて、漏れ出る声を、高熱の吐息と共にベッドに染み込ませる。
 もうどれほどの卑猥な声と言葉を吸い込んだのか、品無くてらてらと光沢のあるシーツはじっとりと湿り気を帯びていて不快だ。
 そして生地が吸い込みきれずに溢れ出た声音が、背後の男を喜ばせるのだ。

「……父さん、もう……これ、はずしてっ――」

「冬馬。今日は一緒にイクって約束だろう」
「でも……も、苦しっ――」
「もう少しだけ我慢しなさい。もっとよくなるから。父さんの言うこと、聞けるだろ……ん?」
「……はっ、ぁぁ――!」
 一番弱い部分を刺激されると、背筋が感電したようにびくびくと震える。

 もう少し我慢したって、苦しいだけだ。
 絶対よくなんてならない。
 全然気持ちよくなんてならないのに、父さんさんは許してくれない。

 本当に父さんの夜の相手は苦しい。
 いつもは優しく、成宮の言うことなら何でも聞いてくれるのに、ベッドの上でだけは厳しくて、身体がおかしくなるまで離してはくれない。

「っ……も、もう……あっ、あッ、あアァっ――!」
 
 既に崩れた四つ這いをさらに崩すが、より深い繋がりを求めたもう一つの身体に、尚も無理やり熱いものを打ち付けられる。
 涙でシーツを濡らす。
 ぐちゅぐちゅと耳障りな雑音が体内で響く。
 噴出す汗がうなじを伝う。
 
「仕方の無い子だ。じゃあ、ちゃんと前教えた通りに、おねだりしてみなさい。出来たら、これを外してあげよう」

 淫靡に光る金具と、それに繋がれて、はち切れんばかりに鬱血したものを軽く撫でながら、父さんが言う。少し触れられただけでも、それは恥ずかしいくらいに嬉しそうな反応を示してしまう。
 
 濡れた顔をシーツから離して、悩ましい角度で後ろをちらりと振り返る。
「で、出来るよ……。ちゃんと、おねだり……出来る、から……」
 乱れた呼吸に涙声を重ねると、父さんは満足そうに目を細めた。

 やるさ――何だって。
 この苦しみから逃れられるのなら。




 ぐったりと横たえた身体はまだ火照っている。
 どのくらい経ったのだろう。
 いつも通り腕枕の上で目が覚めた。
 
 寝返りを打とうとするが下半身はあらゆる場所が痛くて持ち上がらない。
 結局何をしようと、父さんが満足するまでは開放されないのだ。

「父さん……?」
 ニュースを見ていたらしい父さんが振り向く。
「起きたのか」
「うん」
「何か飲むか? 冷蔵庫を見てこよう」
 起き上がろうとする胸板を、大丈夫だからとそっと触れた。

「ねえ、あの話……どうなった? あの……、殺人事件の……」
 口ごもりながら一番気にかかっていたことを聞くと、ああ、あれかと剥きだしの肩に手がかかる。

「ちゃんと警視庁の知り合いに話しておいた。
 まあ向こうも、怨恨の線だとはあまり考えてないみたいだな。製薬会社の社員というのは、ずいぶんと危ない仕事を任される場合があるらしい。
 ま、お前に直接捜査の手が及ぶことはないはずだ。
 聞きたい事があれば、私を通すように言ってある」
「ほ、ほんとに……!?」
「ああ、心配しなくていい」

「ありがとう。……やっぱり父さんに相談してよかった」
「まったく、手のかかる息子だ」
「ごめんなさい」
 小さく言うと、父さんが優しく微笑んで頭をなでる。
 いつもこうならいいのに。
 
「冬馬――。遊ぶなとは言わない、お前はまだ若いからな。
 ただ、今回みたいな変な事件に巻き込まれないように、相手はちゃんと選びなさい。世の中にはお前の人生を狂わせるような、くだらない女がいくらでもいる。いいね?」
「わかった」
「それから、これからも心配事は全部父さんに話しなさい。冬馬は自分一人で悩み事を抱え込むところがあるからな。ちゃんと苦しい時は苦しいと言わなきゃだめだ」
 
 自然と表情を緩ませ、静かにうなずく。
 やはりこうやって心配してくれるのは、この人だけだ。
 周りは成宮冬馬という存在に勝手に理想を重ね、憧れの眼差しでみては、何かを求めてくる奴らばかりだからいけない。
 



 帰国後、呼吸もままならない溺死しかけの精神を、辛うじて救ってくれたのが父さんだった。いや、父さんが見せてくれた幻想だった。
 自分を心配して見守ってくれている人がこの世に存在するという安心感――という幻。
 もともと他人に依存してしまうことが多く、外見ほど強くは無い。

 今現在、成宮の精神は、父さん――と呼んでいる素性の分からない男に支えられている。
 そして肉体は、不特定多数とまではいかないが、数人の女達を性のはけ口にすることで成り立っている。
 その女性達は皆どこかが、ある人物に似通っている。
 声であったり、雰囲気であったり、肌であったり。
 女達もまた幻を見せてくれる。その似通った人物とベッドに入っているような、淫らな幻を。

 その人物は成宮にとって、神よりも尊い。
 
 恋愛という言葉を知るずっと以前から、物心がついた時には、もう既にその人物は隣にいて、成宮はその存在に溺れていた。
 成宮は少しでもその人物の視線をそらさないために、より完璧な存在を目指した。
 その人物がバスケ選手が格好良いと言えばバスケを始めたし、優しいお兄ちゃんが欲しいと言えば、人一倍精神面がもろいくせに、少しでも頼られるような大人びた気丈な性格を目指した。

 だからその人物が成宮を見ようとしなくなった時は、神に見放されたような気分だった。
 それを忘れようと、母の看病という口実をつくり異国で中学時代を過ごしたが、結局忘れるどころか自分の性癖を助長してしまう結果となった。
 
 だから成宮は、結局今でもその人物の隣にいる。   
 平然を装いながら、その人物の言葉一つ仕草一つに一喜一憂し、振り向いてくれと心の中で声をからしている。
 その人物が彼女とメールしている姿を見て、笑顔の裏で嫉妬に狂っている。
 欲しくて欲しくて、たまらない。
 手の届く距離にいながら、触れることさえ出来ない。
 焦がれ、飢え、心も身体も渇ききっている。
 どれだけの数の女と寝ても、知らぬ男を父さんと呼んでも、成宮の中身が潤うことはない。

 この世で唯一、成宮を精神肉体共に救い、存在を安定させてくれるであろう尊いもの。 
 ただそれは、この世で唯一手に入らないものでもあった。
 なぜならそれは、男で――、幼馴染で――、そしてどうやら成宮のことを、かなり嫌っているらしい。




 父さんが微笑む。
「いい子だ」
 髪を撫でられると、年甲斐も無く嬉しくなってしまう。

 本物の父親を思い出す。
 こうやって頭を撫でてもらったのは、もうずいぶんと前だ。
 最後に顔を見たのは、三年前。
 異国の教会。母の葬式だったか。

「父さん……大好き」
 両腕を回してキスをすると、それは徐々に熱をもち深くなっていく。

 ほどなくして、また覆いかぶさるような体勢で肌を求められる。
 分厚い舌が首筋を這い回る。
 欲情した手が、まだ痛みのひかない下半身を開きにかかる。

 また痛くて苦しいことが始まるのだと覚悟して、瞳を閉じた。
 少しの間我慢すれば終わる、若しくは気を失う。どちらにしても開放されるのだ。
 ぎゅっと眉間に力をいれて、耳元をなぞる不快な感触に耐える。
 
 またあの笑顔を思い出す。
 苦しい時は決まって現れる、はにかむような透き通る笑い顔。
 その視線は決して成宮に向けれれてはいないのだが、それでも帰国後初めて目にした時には、呼吸を忘れた。




 きゅいぃ。
 木と木が擦れるような異音。
 
 覆いかぶさる男にむさぼられたまま、音がした方に眼だけを動かす。

 檻だ。
 いつものラブホテルの一室のはずが、その入り口付近を、古めかしい木格子が断ち切っている。
 
 ああ、そうか――。
 これは――夢だ。
 
 昨日の夜の出来事――の夢。
 またずいぶんと苦しい夢を見たものだ。

 ずらりと並ぶ小さな正方形。
 格子の向こうに広がる、懐かしい風景。
 
 ただしそれだけではない。
 人影――?

 きゅいぃ。
 こちらをのぞいていた格子の向こうの人影が、一歩後ずさる。
 逆光で見えなかった顔を見て、血の気が引いた。

「ゆ、祐……!?」
 思わず名前を呼んで、勢いよく起き上がった。
 



 格子の向こうで青ざめた表情をしているのは、先程まで瞼の裏に張り付いていた顔だった。
 成宮と目が合った途端、我に返った様子でその場から走り去ってしまった。

「祐っ! ま、待って……!」
 既に、上にあった男の姿は消えている。
 ベッドから飛び出し、とりあえず下着と服を着て、荒々しく格子を開ける。

 そこはやはり、祐の一番好きな場所だ。
 振り返ると、小さな社の中にホテルの部屋が広がる不自然な風景だった。

「祐――っ! 祐――?」 
 シャツのボタンを止めながら呼ぶが、気配はない。
 もしかしたら下におりたのかも知れないと石段を下ろうとして、いや、あそこかと足を止めて引き返す。
 
 社の裏に広がる鎮守の森に踏み入ると、太陽光が僅かに陰るほどの場所に、灯篭の形をした塚が二つ鎮座する。
 人の墓とは気付いていないのだろう。祐は小さい頃から、かくれんぼをすると、決まってここに隠れている。
 そして今回も――やっぱり。
 塚の後ろにうずくまる高校の制服を見つけた。

「祐……?」
 優しく呼びかけると、小さく丸まった背中がびくりと反応する。
 
 近づこうとしたが、自分の着ている服を思い出して、これではいけないと考える。
 こんな大人びた服装では祐を怖がらせてしまう。元々臆病なんだ、祐は。
 少し考えて、やはり同じ高校の制服がいいだろうと思った次の瞬間には、もうすでに薄いチェックのポロシャツは制服に変わっていた。
 自分の夢の中なのだから、服装など好きに変更できる。

 もう一度名前を呼んで一歩踏み出すと、祐は勢いよく立ち上がり、怯えるような顔でこちらを睨みつけた。

「祐……どうしたの? こっち、おいでよ」
 ぎゅっとかたまる細い腕に手を伸ばす。

「さ、さわるな!!」
 まるで汚らわしいものを避けるかのように成宮の手をはらい、貴崎祐は一歩後ずさった。 

「ご、ごめん……」
 動揺して言葉を失う。
 確かに成宮の手は汚れている。
 手だけではない、心も身体も全て、もう充分過ぎるほどに穢(けが)れてしまっている。

 でも――何故だろう。
 夢の中の祐は、小さい時のように、いつも成宮のことが大好きで常に成宮と一緒に行動したがる。
 臆病だから、こんな風に一人で勝手に出歩いたりしない。成宮が迎えに行くまでいい子で待っているはずだ。
 そして成宮が欲しいと、反則ともいえる表情で成宮をベッドに誘っては、いじらしい仕草で成宮を煽る。今日まで、機嫌を損ねないよう優しく大切に扱い、少しずつ調教してきたのだ。

 なのに今の祐は、まるで犯罪者でも見るような軽蔑の眼差しで成宮を見上げて、身体を畏縮させ小刻みに震えている。

「お前なんか、嫌いだ。寄るな……!」
 
 夢とはいえ、さすがにそれは傷つく。

「どうして……どうしてそんな事、言うの?」

 せめて夢の中でくらい、好きだと言って欲しい。
 成宮の問いには答えず、祐はまたこちらをねめつける。

 どうもいつもの夢ではない。
 よく眺めると、まるで現実世界であるかのように祐の姿が艶めかしい。
 漆黒につやめく髪の毛の一本一本。
 ボーンチャイナのような肌理細かい肌、首筋に透ける毛細血管。
 切れ長の奥二重、朱に染まる下瞼の縁。

 そして、少年が宿す近づきがたい孤高な雰囲気までもが現実そのものだ。
 鎮守の森の一部であるかのように神聖で高潔な存在。
 汚らわしい身体の成宮を異物と認識して、排除しようとしている。
 
 駄目だ、そうはさせない――。
 ここは、俺の夢の中だから――。

「祐、向こう行こ。ほら、雨降ってきたし。濡れちゃうよ?」

 静寂を叩き沈めるように、突如大粒の雨が降り始めた。
 成宮の思うとおりに世界が動く。不可能はないはずだ。

 顔の表面を雨の雫が伝いはじめても、いっこうに動こうとしない祐に少しずつ苛立ちが増す。
 痺れをきらし思い切って細い手首を掴んだ。
 離せ離せと子供のようにうるさい祐を先程の祠まで引っ張って行き、部屋の中に引きずり込むと、どうやら観念したらしく急に大人しくなった。
 それでも成宮のことをきつい眼差しで睨みつけている。
 



「どうしたの……。今日の祐、おかしいよ?」

「おかしいのは……お前だろ? 成宮」
 
「俺が?」 
 そう言うと祐は急に顔をそむけ腕を掻きはじめる。
 動揺した時の祐の癖だ。
 
「お前、どういうつもりなんだよ。あの人……、あの人泣いてたぞ……。ずっと、お前の帰り待ってたのに」

「あの人?」
「ショートカットの……。彼女なんだろ? お、お前の、子……妊娠したって……」
 少し考えて思い出した。
 何を言い出すのかと思えば、そんなことか。
「ああ、もしかしてユキのこと?」
「名前は、知んないけど……」

「嘘だよ、妊娠なんて」
 鼻で笑うと、祐は眉をひそめて顔を上げた。
「嘘……?」
「もう三回目かな、そうやって騒ぐの。前の二回も嘘だったし。ちゃんと付き合ってた訳じゃないから、妊娠したって言えば俺の気をひけるとでも思ったのかな。
 まあ、とにかく嘘だよ。
 どちらにしても祐の心配することじゃない」
 祐は納得する訳でもなく、顔をしかめたまま一点を見つめて何かを思い返しているようだ。

「わかった……祐。妬いてるんだね? それで、そんなに機嫌が悪いんだ。
 大丈夫だよ、俺は祐だけだから。
 あの女は、ただの祐の代わり。もちろん祐の方が可愛いけど、ちょっと雰囲気が似てるかなって思っただけ。どうせ近いうちに別れるつもりだったんだ」

 雨が滴る白い頬に触れようとすると、その指先は先程よりも激しく祐に払いのけられた。
 汚いものでも見るような冷たい目つき。成宮を軽蔑しきった顔だ。

「へえ、じゃあ死んで好都合って訳だ。よかったな、別れる手間が省けて。
 もういいよ……帰るから。退けよ、そこ」
 祐は冷ややかに言って部屋を出ようとする。
 
 ガシャンッッ。
 
 その目前を遮るように真横に左腕を伸ばし、隙間を開けていた格子戸を派手に封鎖した。
 軽く意識するだけで外の南京錠が小さな音を立てて施錠される。 
 
「まるで……、まるで俺が殺したみたいな言い方だ」
 
 笑顔など忘れて横目でじろりと睨みつけると、祐はわずかに動揺した。

「で、俺が殺人犯だったら、祐はどうするの? ちょっとは俺のこと見てくれる? 自首しろって説得してくれる? それとも――俺に殺されてくれるのかな」

 祐はゆっくりと一歩後ろへ下がり、成宮との距離を保った。
 女のような細い喉下を汗が一筋流れていく。
 どうやら本気で殺人の容疑をかけられているらしい。

「俺、ずいぶん信用ないんだね。これでも、祐に頼ってもらえるように結構頑張ってるつもりなんだけどなぁ。祐が欠席した時のノートだって全部写してあげたし、テスト前だって祐が分からない問題、俺のフォロー完璧だったでしょ? 結構大変なんだよ? 部活終わりで家事もして勉強もするって。俺海外が長かったから、漢字とか苦手だし」
 
「信用ないのは、お前自身の行いのせいだろ……! 女と居酒屋行ったり、煙草吸ったり。
 そ、それに……なんなんだよ……あの男。あいつ、お前の父親なんかじゃないだろ……。どうして、あんな奴……。あ、あんな事して、何が、楽しいんだよ……」
 
 今日の夢の中の祐は、成宮が一番知られたくない事を何故か知っている。
 そして尚且つ、現実同様、一番知って欲しい事を知らない。
 どうして、あんな奴と――?
 誰のせいで――誰のせいで、こんなに苦しい思いをしてると思ってるんだ――。
 わずかに取り戻しかけていた微笑みと冷静さが、音をたてて剥がれ落ちていく。

「祐って……そんな事、言える立場?
 なんだよ、あんな知りもしない男にナンパされて付いて行ったくせに……。おじさんの知り合いなんて嘘だろ。祐の方こそ何考えてんだよ……!
 あんな男のことは信じて、こんなに尽くしてる俺のことは犯人扱い?」

「ち、違っ……そ、それは……」
 消え入る声で言う当惑した様子の祐に、尚も冷血な言葉を続ける。

「違わないだろ。あの男にどこまでやらせてやったんだよ。肌触らした? キスしたの? もしかして、もうヤッたんじゃ……」
 
 祐は一瞬泣きそうな表情をしてから、格子戸を開けようと手を伸ばす。
 その手を素早くつかみ、力ずくでベッドまで引きずっていく。乱れた赤いシーツの上に、祐を無理やり押し飛ばす。

「まあ、そんな事あるはずないか。
 祐は一年半付き合った彼女と、キスもできないくらいお子様だもんねえ」
「な、なんで……そんな事……」
「祐のことは何でも知ってるよ? 初めてデートに行った場所や、始めて手繋いだ場所も。この間の祐の誕生日は確か映画見に行ったんだっけ。誕生日プレゼントのマフラー、あれ俺が一緒に行って選んであげたんだよ? 由美子って全然そういうのセンスないからさ」
 祐はベッドの上でうずくまったまま後ずさり、おおいに怯え慌てふためいていた。

「由美子なんてどこがいいんだよ、あんな女。見た目だけでチヤホヤされて調子に乗ってさ。頭悪いくせに文句ばっかだし。全然祐のことなんてわかってない。
 ちょっと誘ったらすぐその気になって、簡単に唇許すし。一回キスしたくらいで彼女気取りだから面倒くさくてしょうがない」

 あんな女やめちゃえよ――。
 それで俺の虜になっちゃえばいいんだ――。

「キ、ス……?」
 祐の動きが止まった。

「ああ、やっぱり気付いてなかったんだね。よかった。
 由美子が祐に見られたかもしれないって言うから焦ったんだ。急に学校抜け出したっていうし、慌てて後追ったんだけど……。
 もしかして彼女のキスシーンがショックで、相手の男まで見てなかった?」

 くくと笑ってベッドの上に手をつき、膝をかける。
 祐は顔面蒼白でこちらを見つめている。

「残念だったね、彼女も初キスだったのに。祐が悪いんだよ? 一年半も待たせるから。よくそれで、俺が女を泣かせたとかって責められるよねえ」 




「お前……ほんと……。ほんと、最低だな……」

「そうだよ、知らなった? でも――」

 でもそれは――全部、祐のせいだ。 

 青ざめた顔は今にも泣き出しそうな表情なのに、澄んだ瞳だけはきつく成宮を見据えていて、こんな時でも凛としている。
 一筋のひびが入った薄い磁器のような危うさと、溜息が出るほどの美しさだ。

 でもその美しさは危険過ぎる。
 すぐに欲しくなってしまう。
 穢れた手で触れてみたくなる。
 透き通った肌を、身体を、めちゃくちゃにして、この手で粉々に――壊してみたくなる。
 
 細い両手首をつかまえ、覆いかぶさるようにして祐をベッドに押し倒した。
 案の定、祐は聞き分けのない子供のように力いっぱい抵抗してくるのだが、やはり体格の差だろう、この程度としか言えない腕力だ。
 全身で祐を押さえ込み、無理やり唇を奪う。
 性急な手付きでシャツを捲り上げて、冷やりとした吸い付くような肌に手を這わす。

「やっ……嫌だ! やめッ――」

「教えてやるよ。好きってどういうことか。
 一年半キスしなくても大丈夫なんて、好きって言わないんだよ……祐」

 血の気のない耳元に直接吹き込む。
 自制心や理性などというものは、とうに手放していた。
 
 抗う祐のベルトを外して下半身に直接触れると、祐は背を弓なりに反らせて、びくりと跳ねるように反応を示す。
 祐の身体は見るからに未成熟で、青い果実の薄皮ゆえか、ひどく過敏で感じやすい神経をしている。
 首を左右に強く振って一層抵抗を強めているようだ。

 窮屈になりはじめた下半身を開放しようと自分のベルトに手をかけた時だった。

 泣き声。

 顔を上げると、驚いたことに、祐が子供のように泣き始めてしまっていた。
 まさに小学生そのもの。
 あの頃と泣き方がまったく変わっていない。
 両目を拳で隠し、顔一面を涙でべちゃべちゃにして泣きじゃくる。
 しくしくではない。えんえんと泣き、時々しゃくりあげては、過呼吸になるのではないかと成宮を焦らせる。

 そうだ――祐は、まだ――子供なんだ。




 一つ息を深く吐いて、ベッドから立ち上がる。
 部屋から出て外から格子戸を閉めると、やっと泣き声が止み、祐はゆっくりと身体を起こして呼吸の安定しない泣き顔でこちらを見た。

「祐、駄目だよ。ここから出ちゃ。祐はずっとこの中にいなきゃ……ここなら誰も祐のこと傷つけたりしない。誰も祐をいじめたり、悪口言ったりしないよ。ね、だからここにいて」

 小さな南京錠をかける。
 危うく自らの手で一番大切なものを壊してしまうところだった。
 祐はまだ子供だから、成宮が守ってやらなければいけない。
 異質なオーラと家庭環境のせいか、昔からすぐにいじめの対象になってしまう。その上すこぶる傷つきやすい。

 だから、ここで祐を大切に飼うことにしよう。
 成宮だけがあの肌に触れられるのだ。
 そうすれば祐は成宮だけを見て、成宮の名前だけを呼ぶ。成宮の声だけを聞き、成宮しか愛さなくなる。
 それでいい。
 貴崎祐は成宮冬馬のものだ。
 少なくともここ――夢の中では。

 


 しかし、なんて苦しい夢なんだ。
 夢なのに頭痛がする。吐き気もする。身体が重たい。
 熱でもあるのだろうか。
 石段の一番上にぐったりと腰をおろし、額に手をあて膝に突っ伏す。
 気が付けば肩で息をするほど息苦しくなっていた。

 遠くで携帯のアラーム音が鳴っている。
 もう起きないと――。
 
 機械的に響く電子音にまぎれて、土を蹴る小さな足音が背後から近づいてくる。

 「とぉま――っ、とおまぁ――」
 可愛らしい声で遠くから成宮を呼ぶ。
 
 ああ、もう起きなければいけない。
 なのに夢は覚めない。

 愛くるしい靴音を残酷に響かせて、また悪夢がはじまる。
 
 




【後書】
 今回はちょっと痛い内容になってしまいましたね( ̄Д ̄;;
 結構ファンが多かったのにね……ごめんなさい。成宮さんm(_ _"m)ペコリ 
 まあ夢の中の話だしねえ~ヾ(´▽`;)ゝウヘ
 こういう狂気じみた内面を書くのは好きです。現実世界では勘弁してつかあさい( ̄人 ̄)なんですが、実は本性が全然違ってたってのは書いてて楽しいもんです。読む方からしたら、あんまり心臓にいいもんじゃあないですが……(^^;) 

 ちなみに今日で一つ歳をとりました。
 誕生日に一人BL小説の性描写を更新する三十前の女ってどうなんですかね……。
 まあ結婚もして妊娠・出産もして、家族以外はお金もないし、もうすぐ職もなくなる(ってか辞めちゃう♪)し、何も怖かあない。こういう身体も悪くないもんだと思います。
 最低限必要なものだけ傍に置いといて、この身一つ、手ぶらで世の中渡っていけるイケイケなババアになるのが夢です。

 次回は今日よりは短くなると思います。
 まあ今日は九千字ほどありんしたから……もう好きな所で区切って次の日に読むとか工夫して下さい(←ついに他人任せ)
 また貴崎視点に戻る……はず。
 
 別枠でコメレスさせていただきます♪
 沢山の拍手やコメありがとうございます。゚(゚´(00)`゚)゚。ぶひぃーん
 すごく力になってます☆彡 おかげで今回はちょっと更新早められました♪♪
 
 ではではペコm(_ _;m)三(m;_ _)mペコ
 
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