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二度瞬く [第二話]

[注:残酷な描写・内容が含まれますので苦手な方はご遠慮下さい]


 『待ち人来ず』


「よかったの? 置いてきちゃって。成宮君だっけ……ずいぶん君のことを心配していたみたいだ」

 少しも心配などしていない軽い面持ちで言い、遠く海沿いの道先を眺めながら、男は慣れた手付きでギアを上げる。

「ああ……別に」
 
 気のない返事をかえしながら貴崎は車外の景色を眺めた。
 最初は落ち着かなかったスポーツカー特有の重低音と、うわついた動きのメーター類の指針が、今では自分の部屋の一部のように思えるほど居心地がよかった。それくらいに長い時間、この車は貴崎を閉じた込めたままにしている。
 いかにも純正品ではなさそうな助手席の赤いシートが背中になじんできているのを感じながら、少し前に暴言を吐きかけた幼馴染の悲しそうな瞳を思い出していた。
 

 

 数時間前。男が言った通り、大人と車に乗っているというだけで、制服少年一人では到底太刀打ちできない警察の検問を、貴崎はたやすく突破した。
 体調が悪い生徒を今から病院に連れて行くという、取ってつけたような嘘を警察は疑いもせず、男の運転免許証をスルーした警察官の目は、運転席の窓から貴崎を哀れみの目線で覗き込むだけであった。

 それから近くのイタリアンレストランで男と昼食を食べた後、当然解放される訳も無く、買い物、ドライブと男に連れ回された。
 逃げる機会はいくらでもあったが、それさえも今の貴崎にとっては面倒だった。
 幸い男はとても紳士的で、貴崎が殆どしゃべらずにいても機嫌を悪くすることはなく、ただ一二歩遅れて隣について歩くだけで満足そうに微笑んだ。




 気が付けば車窓からの眺めはすっかり闇に包まれている。
 最後に車を降りたのは、老舗料亭の静かな駐車場ではなかったか。
 
 なげやりな気分にまかせて、飲めもしないのに手を付けた食前酒というやつが、かなりの効力を発揮しているらしい。
 身体がふわふわと軽く、実に気分がよかった。
 初めて体験する心地よさと、全てを忘れられそうな開放感。貴崎は今日という最悪な日の終わりに自分が求めていたものはこれだったのだと、少し角度を寝かせたシートに顔をすり寄せた。




「大丈夫?」
 男の静かな声に薄目を開けた。
 絶え間なく唸りをあげていた車体がいつの間にか停止している。
 倒していたシートを起こし見ると、フロントガラスの向こう、ガードレール越しに広域の夜景が瞬いていた。
 少し振り返ると、リアウィンドウの濃いスモークガラスとの境界を持たない透過性の低い一面の闇。
 どうやら、ずいぶんとひと気のない山奥からこの風景を眺めているらしい。

「穴場なんだ」と微笑む男は、日の高いうちとは比べものにならない近い距離から、長い人差し指で貴崎の伸びた前髪に触れた。
 それに反応するように、ちりりと後頭部がしびれ、新しいステージの幕開けを貴崎は痛感する。



 
「キスくらい、いいだろ? その歳で初めてってことは無いはずだ」

 エンジンが停まってからどれくらい経ったのだろう。貴崎の耳に口元を寄せて男が静かに言った。
 その優しいはずの響きが、何故だかひどく挑発的に聞こえたのだ。

 キス、くらい。
 初めてでは無い、はずだ。
 
 もちろん。キスくらい、初めてでは無い――。
 貴崎は取り急ぎ思い出す。
 確かあれは小学校低学年の時。何かのご褒美だとか言って、従兄弟に褒められてキスをされた。いや、あれは従兄弟じゃなくてバカ兄貴だったか……。とにかく、あの時は間違いなく唇だった。
 それに記憶には無いが、幼少期にはいくらでも両親にキスされているはずだ。
 
 そうだ。
 キスくらい。どうってことはない。
 何しろ初めてではないのだからと、狼狽しかけた神経に言い聞かせて立て直す。

 今日の正午、自分の彼女もそう思ったのだろうかと、嫌な回路へ思考が流れ込む。
 どうして。どうして、その相手が俺じゃダメなんだよ……。
 あれから何度も、数え切れないくらいに助手席で繰り返してきた無限ループのスイッチがまた入りかける。それは毎回6秒間の悪夢から始まる。

 嫌だ。
 もう思い出したくない。
 頼むから許してほしい。逃れたい。あの6秒間から。
 
 どうでもいいのではなく、ただ全てに疲れたのだと貴崎は気付き、悪夢に取り付かれた全身から力を抜いて瞼を閉じる。

 それを返事と受け取ったのか、早々に触れてきた男の唇は驚くほど冷たかった。
 びくりと肩から上を硬直させて頭を後ろに引くが、座席のヘッドレストに阻まれる。それを追うように男の唇がさらに押し当てられて、貴崎の儚い体温を奪っていく。
 閉じていた瞼をわずかに開く。細められて刺すような視線に気付き、またぎゅっと閉じる。

 しばらくして男の顔が離れていくと無意識に息が弾んだ。呼吸という大切な生命維持活動を忘れていた。

「ごめん。もしかして、キス、初めてだった?」
 
 男が笑う。頬に血が駆け巡るのを隠すように下を向いて、不貞腐れた面持ちで真横を睨むと、男はまた面白そうにははと笑う。

「本当に可愛いね、君」
 そう言って、また唇を寄せる。
 知らぬ間に貴崎の吐く息が白くなるほど車内は冷えきり、凍てつくような体温の男同様、新たな熱を求め始めている。

 さっきよりも粘り気のあるキス。
 またきつく瞳を閉じると、あろうことか、ひんやりとした男の舌が感触を楽しむように貴崎の下唇を這って熱を吸い取っていく。

 何してんだ。俺は……。
 恋人の浮気現場に動揺して、どうにでもなれと行動した結果が今の惨状だった。
 ずっと前から思い描いていた理想のキスとは全く違う。恋人はおろか、異性ですらなく、年上の男と唇をつなげている。
 男に声をかけられた時、これくらいの展開は貴崎にだって予想できていた。それだけに、推測通りの現状をいざ向かえ、内心慌てふためいているいる自分が馬鹿みたいで、情けなくて、くだらない人間に思えた。
 
 男の指が貴崎の首筋を滑る。
 金属のように冷たい指先だった。
 それに驚き開いた唇のわずかな隙間に、飢えたような動きで男の舌が侵入した。

「……っ!」
 これ以上は無理だと速やかに判断し、舌から逃れようと激しく首を振る。両手で男の肩を押し返してみるが全く動じない。
 途端、座っていた背もたれが勢いよく倒れて上から男が覆いかぶさり、すごい力で貴崎の全身を押さえつけた。
 
 やばい……!

 全身をいやらしい動きで這い回る手を払いのけ、両足を力任せにバタつかせると、そのかいあってか男の上半身がいったん離れた。
 
「大人しくしてくれないか。無理やり犯すのは趣味じゃない」

 窮屈な暗い車内で貴崎の上に馬乗りになって見下し話す男の顔が、出会った時とは違って見えた。
 車内の空気と同じように冷気を含み、生命の温もりを感じさせない表情。

「誰が、お前なん、か……と」
 腹の上に乗られているせいで上手く声が出せない。罵声を浴びせるかわりに最大限の軽蔑をこめて睨み上げると、男は目を細めて少し考え、ニヤリと笑った。

「ならこうしよう。
 暴れられるとゆっくり楽しめないからね。一日に一人でも二人でも同じことだ」

 言葉の意味を理解する前に、男の両手が貴崎の細い首に回った。

「犯すか、やるか、どちらが先でも俺はいいんだ。
 君がそのつもりなら、先に静かになってもらおう。
 
 俺の相手をしてくれるのは、あとでいい。死んだあとでね」

 死んだ、あと……? 
 それって、俺が――?



 俺。
 もしかして……殺され、る……?
 
 殺す。この言葉が今日二度目だと気付き、記憶をたどってハッとした。
 会ってすぐに男は言った。
『少し前に人殺しがあったらしくてね』
 
 そうか。そういうことだったんだ――。
  
 男が貴崎を車に乗せて検問を抜けたのは、貴崎を助けるためなんかじゃない。
 男自身が検問を通過するため。
 こいつが。こいつが、人殺しの犯人なんだ――。

 貴崎の首にあてがわれた男の両手にぐっと力がこもる。
 それを掻きむしって離そうとするが、長い男の指は細い貴崎の首に余裕をもって一周し、その上かたく吸い付いて剥がれない。
 
 嘘。
 嘘だ――。

 完全なる想定外だった。
 今考えれば、逆にどうして気付かなかったのかが分からないくらい、簡単に思いつく可能性なのに。
 あの6秒間の呪縛せいだ。

「……ぃや……。嫌だッ……死……く、な、いっ……!」

 圧迫された気道から涙声を絞り出すと、男は少し手を緩めて鼻で笑った。
 
「悪いのは君だよ? いくらでも逃げるチャンスはあげたはずだ。
 成宮君といったか、あの子だって君を助けようとしてくれたんだろ? 君はその助けを蹴って、ここにいるんじゃないのか? この選択肢を選んだのは君だ。
 ナンパされて、何も考えずに殺人犯について来てしまった。同情の余地はないと思うけどなあ」
 
 喉を押さえ付ける手が多少ゆるまり、少しなら声が出そうなのに、あまりにも的確な男の台詞に貴崎は言葉を失った。
 
 一寸先の死の恐怖に、男の手を引き剥がそうとする指先から力が抜ける。
 唇が小刻みに震える。
 涙でべちょべちょになった顔を何度も左右に振り、死にたくないと男を見上げる。

 また男は笑う。

「君は本当に可愛い。
 誰でもよかったのに……まさか君のような子に、それも手付かずの綺麗なまま出会えるなんて。
 奇跡だ」 
 
 奇跡。その奇跡のせいで、俺は、死ぬのか――。 
 男が上半身を乗り出し、両腕に体重をかける。
 息ができない。
 苦しい。
 目尻から伝っていた熱い流れが途切れる。
 
「怖がらなくてもいい。
 死んでも、君を一人にはしない。俺の近くに置いてあげよう。
 身体は、温かいうちに抱かさせてもらうよ」
 
 苦しい。苦しい。苦しい。
 息を吐くことも吸うこともできずに、ただ乾いた熱だけが開いた口から吸い上げられていく。
 頭がぼんやりとして、涙で水中のようになった視界がさらにかすむ。

 ああ、俺は死ぬんだ。
 こんなことなら、もっと――もっとやりたい事をやっておくのだった。
 どうして昨日アイス買うの我慢したんだ。
 どうして録画した番組見とかなかったんだ。

 どうして、恋人にキスしとかなかったんだ。

 最後の瞬間に思いつくのは、貴崎の人生を表すかのようにくだらない事ばかりだった。
 噂に聞く走馬灯とやらは、あまりにも生きた期間が短すぎたせいか全く上映される気配がない。

 俺の部屋、警察が入ったりすんのかな――もっと掃除しとくんだった――。
 あ、兄貴にジャンプ返してない――もうワンピースの続きも読めないのか――。
 
 親父に一言でも、ありがとうって言っておけばよかった。
 恋人に、一度は目を見て好きだと言えばよかった。

 そうだ……。そうだ、あいつにもまだ――。

 顔面が火照って焦げるように熱く、首で塞き止められた高熱の血液が頭に溜まっていくのがわかる。
 
「……ッ、とお……ま……」

 ごきッ。

 男の親指が貴崎の首に深く食い込んだ瞬間、何かが折れるような鈍い音が体内で響いた。
 テレビの電源が切れたように視界が暗黒に染まり、ずっと耳鳴りのように顔の内側で響いていた血流のざーざーという音が止む。
 首から下の感覚は無くなり、男の腕に掛かっていた貴崎の手が、糸が切れる操り人形の動きで座席に落ちた。




 苦しい。苦しい。苦しい。

 息を止めていた水中から勢いよく顔を上げるように、酸欠状態の肺にひと息目を吸い込んだ。

 無明の闇が一転、眩しいくらいに明るくなったので貴崎は顔をしかめる。

 白一色。
 薄目で自分が立ち尽くす場所を確認すると、そこは白い靄に包まれている、ぼやけた世界だった。
 天国――?
 思ったのも束の間、そうではないことが分かった。
 
 なにやら騒がしいと思っていたら、首輪をした小型犬が貴崎の足元で威嚇丸出しで吠え騒いでいる。すぐさま「コラ」と声がかかり、引きずられるようにして犬は遠ざかって行った。
 気付かなかったが、貴崎のすぐそばに犬の飼い主らしい初老の女が立っていたのだ。
 
 未だ酸素不足の余韻を引きずった脳ミソで、貴崎は犬と飼い主が去るのを唖然と立ち尽くしたまま見送った。
 そのあと立っている場所をもう一度確認すると、貴崎が動悸激しく突っ立っていたのは、まぎれもないアスファルトの上だった。
 
 周りの景色をざっと再確認した後、まさかと思い振り返ってみると、思ったとおり。見慣れた鳥居が背後にそびえ立っていた。鳥居が囲む四角の中からは、あの世へ続くかと思えるほど天高く立ち上る石階段が続いている。
 
 そこは、毎朝登校時間に幼馴染と待ち合わせる、いつもの場所だった。
 
 天国の靄だと思っていたのは、この季節によくある朝霧だ。
 よく目を凝らしてみれば珍しくもない、見飽きた風景が広がっている。ぼやけていたのは周りではなく、貴崎の脳ミソの方だったらしい。
 
 いつもの時間にいつもの場所。いつもの朝だ。
 
「夢、か……」
 思わず声に出てしまうほど、鮮明な夢だった。
 
 息荒く立ち尽くして独り言をつぶやく高校生を、母親に手を引かれて通り過ぎようとしていた園児が不思議そうに見上げる。
 その小さな視線から気まずく目をそらし、白い息を吐き出してから階段の二段目に腰を下ろした。
 
 朝露を含んだ土の匂いがする。 
 首に巻いた気休め程度のマフラーを後ろできつく結びなおし、冷え切った身体を丸める。
 寒いのにシャツの中の背筋はぐっしょりと濡れていた。
 
 それにしてもこんな場所で眠ったあげく夢まで見るとはどうかしている。
 必死にその理由を思い出すと、どうやら昨日貴崎が半分酔っ払って家に帰って来たのは夢ではない。
 
 どこまでが夢だ。
 あの最悪な6秒間。その後学校を出て男に出会い、それから――確か、貴崎を探して駆けてきた成宮を振り切って男の車に乗った。警察の検問を抜けてイタリアンを食べた後、買い物に付き合わされて、ずいぶんと遅くまでドライブした――最後はこの場所まで車で送ってもらったような――。
 
 行き交う人々を目で追いながら昨日最後の記憶を引き出そうとしていると、向こうからいつもの顔が冴えない表情で歩いてきた。
 
 そもそもあいつが待ち合わせ時間に遅れるから、俺が居眠りして変な夢を見るんだ――。
 朝一番の悪い出来事を幼馴染に責任転嫁して、貴崎は立ち上がる。

 成宮は、じっと足元を見詰めながらこちらへ歩いてきた。
 鳥居に差し掛かる手前で一度足を止めて顔を上げたが、貴崎と目を合わせることを避け、わざとらしく深い溜息をついてから、また足元に視線を落とす。

 あ、……怒ってんな――。
 やはり昨日貴崎が成宮に吐いた暴言は夢では無かったのだ。
 温厚な幼馴染が怒ることはあまりないが、それでも昨日は言いすぎた。無視されても仕方がない。
 確か、うざいだの嫌いだのと、いつも自分が言われて忘れるのに一苦労する言葉を一通り並べた。
 夢の中でも貴崎はずっとその事を後悔していたように思う。
 そのせいか思い出したくもないあの夢で、貴崎は最後に幼馴染を下の名前で呼んでいた。
 
「成宮。あの、さ……昨日は――」
 話しかけるのを無視して成宮は貴崎の前を通り過ぎる。
「おい! 成宮――」
 少し強く呼ぶと成宮は足をいったん止めた。が、ポケットから携帯を取り出して画面を覗き込む。
 貴崎の呼びかけを断固拒否する姿勢だ。

 なんだよ、無視かよ――。

 また投げやりな気持ちになる。
 もうどうでもいいと、昨日の反省を活かしきれないまま、貴崎は成宮の後ろについて歩き始めた。





「お、成宮。おはよ――」
「おはよう」

 教室に入ると数人の生徒が成宮に声をかける。机を囲んでしゃべっていた女子グループがいっせいに振り返り、おはようと手を振る。成宮はそれにいちいち笑顔で答えている。
 その軽い挨拶の数々が、決して貴崎にかかることは無い。それどころか誰も貴崎を見てはいない。
 全てがいつも通りだった。

「成宮君、おはよう。今日は寒いね」
 机にカバンを置くやいなや、待ち構えていたように小柄な男子が一人、成宮に駆け寄って来た。
「ああ、一之瀬。おはよう。本当に、今日は寒いね」
 成宮が言うと、少年は何故か伏せ目がちに頬を染める。
 
 一之瀬はいつも大人しく一人でいることが多いが、成宮にだけはちょこまかとよく付きまとう。
 冬の朝は寒いと言う当然の会話を朝一番から交わして何が楽しいのか。バカじゃないかと貴崎は思う。
 それに、どうでもいいとはいえ、さっきまで貴崎を無視しておきながら他の生徒にはにこやかに対応する成宮に、幾分か腹が立った。

「あ……」
 楽しそうに会話する二人を貴崎が数歩後ろから軽く睨みつけていると、一之瀬がその視線に気付いてハッとする。
 貴崎の存在におびえたように一瞬うろたえた表情を見せ、また一之瀬は目を伏せた。

「あ、ねえ……あの……」
 話しづらそうに一之瀬が瞳を泳がせると、成宮が優しく「なに?」と問う。

「あの、今日は……貴崎君、一緒じゃない、の……?」

「ああ。待ち合わせ場所にいなかったから、一人で来たんだ」

 一人、で――?
 
「携帯にかけたけど、出ないし。
 昨日あんな風に帰ったから、またしばらく学校には来ないかもしれないな。
 まあ、いつものことだよ。そのうち、ふらっと出て来るさ」

 何言ってんだよ。
 俺はここにいるだろ。ここに、ちゃんとお前の後ろに、いる――だろ?

 徹底的に貴崎のことを無視する、たちの悪いいたずらかと疑ったが、一之瀬の様子が尋常ではないことに気が付いた。血の気が引いた真っ青な顔で、思いつめたように床を睨んでいる。

「なあ、成宮……?」
 貴崎は弱々しく呼んでみるが、成宮はやはり振り向かない。
 怖くなって成宮の肩に手で触れる。
 
 成宮が振り向いた、と思った時だった。

 にゅくり。

 貴崎の指が、吸い込まれるように成宮の肩の内にあらぬ角度で食い込んだのだ。
「いッ……!」
 あるようでない指先の生暖かい感触に驚いて身体ごと後ろへ引く。
 一二歩さがって、貴崎は絶句した。
 
 今、確実に貴崎の指先は成宮の体内を通り抜けた。
 まるで生ぬるいゼリーを指で切るような、とてつもなく気持ちが悪いとしか表現できない奇妙な感触。

「成宮君。一時間目、実習室だから早く移動しないと……!」
  
 振り返り、不思議そうな顔で背後を見回していた成宮の腕をつかみ、一之瀬が切実な声音で訴えかける。

 貴崎は気が付いてしまった。
 成宮の視線が自分の身体を透過して、もっと後ろ、はるか遠くを見つめていたことに。

 まさか――。
 成宮には貴崎が見えていない。
 そしておそらく――、一之瀬には貴崎が見えている。それは視覚でではなく、もっと不確かな第六感ともいえる感覚で。

 そうか――。
 俺は、やっぱり。
 やっぱり、あの時――。

 一之瀬は、腕を引いて成宮を貴崎の前から連れ去って行った。最後にちらりと振り返って貴崎に向けた童顔は、とても気の毒そうに眉をひそめていた。
 
 教室を見渡す。
 誰にも、誰にも貴崎は見えていない。
 いつも通りだと思っていた全てが、今ここにはもう無い。

    
 クラス全員が教室から出て行っても、貴崎は一人で机の前に突っ立っていた。
 
 どうして、アイス食っとかなかったんだ。
 どうして、部屋の掃除しとかなかったんだ。

 何度繰り返しても、後悔するのは悲しいほどくだらない事ばかりだった。

 あの時、ありがとうって言えばよかった。
 あの時、ごめんと言えればよかった。

 あの時、二度瞬けばよかった。

 こんなに。こんなに早く、死ぬのなら。

 教室の天井角に設置されているテレビの黒い画面だけが、貴崎さえいない、無人の教室を映してこちらを見つめている。





【後書】
 遅れるに遅れて更新したと思ったら、こんなに長い記事で申し訳ありません(。-人-。)
 8000文字程度でしょうか……自分で読み直していても溜息ものなのですが、どうしてもここまで書かないと次に続かないので割れませんでしたo((>ω<o))
 とりあえず主人公に死んでもらわないと話しにならないという、訳のわからん設定でございます(ノω・、)
 この記事の長さと更新間隔……もはやブログではございませんな(-_-;)
 
 時間軸は今更ですが、年末年始が舞台になります。
 あと何だろ……いろいろ書こうと思っていた事があったはずなんですが忘れましたΣ(; ̄□ ̄A
 あ、そだ。こんな展開ですが、BLらしくR指定入れなきゃと思いまして、次回もしくは次々回くらいにR指定を入れる予定です。 この展開から?誰と??って話ですが、主人公が死んだとはいえ、パラレルワールドに移動したり、新しい力を手に入れるために身体を売ったりなんてファンタジックな展開にはなりません。m(_ _;)m ゴメン!!  
 
 あと何? 何書いたらいいんだ……。あっ……近況?(←違う)
 あまりの冷え性と、仕事の疲れが体力・精神共に取れずらいってことで、最近マルチビタミンのサプリとお灸を始めてみました。効いてるような、効いてないような効いてないような……。

 まあそんなこんなで。こんなに長い記事を最後まで読んで頂きありがとうございました♪
 次話のアップはいつごろかお伝えできると良いのですが、ことごとく予告時期から遅れて読者様を裏切ってしまいますので、どうか期待せずにお待ち下さいませ≦(._.)≧
 ではでは☆彡




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Re: お邪魔してます☆

 八月さんお久しぶりです~♪♪
 いつもありがとうございます<(_ _)>

 仰るとおり、二話目にして衝撃の展開……なのですが、実は私の中ではやっと話が始まったって所なのでございます( ̄▽ ̄)
 ほんとどうなるんでしょうか……これ。(▼O▼メ) コラ!!
 一応次回分で「ああ、こういう感じで進んでいくのね」って分かって頂けると思うのですが。といっても、次回分はまだ三割程度しか書きあがっていません(゜ロ゜;)エェッ!?

 最近は携帯からお邪魔することが多くてコメが残せていませんが、八月様の連載はちゃんと早い段階で読ませて頂いてます♪♪ 
 またゆっくりお邪魔させて頂きたいと思います☆彡

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お邪魔してます☆

 お久しぶりです~♪
 二話目で衝撃の展開ですね!Σ(゚д゚;) ビックリしました。どう…どうなるんだろう?
 後書で、とても疲れてらっしゃる様子が窺えて、「次話を楽しみに…」とは言いづらいですが、本当に楽しみしています。
 無理なさらないようにゆっくり執筆してくださいね。待ってますから~( ´・ω・`)
 またお邪魔します。o(_ _)oペコッ
 

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